透、入学する! 6
「おお、さっきよりちっとばかし人数増えたな。よーし、じゃあ出席とるのも兼ねて、自己紹介すんぞー」
教室に戻ると、木戸先生は出席簿を開きながらそんなことを言った。
「じゃ、出席番号順な。えーと、足達透から」
「デスヨネー……」
出席番号順でも身長順でも何でも、最初の犠牲者になるのはもう慣れっこだ。
仕方なく立ち上がると、景気づけか口笛を鳴らすヤツが何人かいた。
「出席番号1番、足達透です。手足の“足”に友達の“ダチ”、透明の“トウ”で、アダチトオル。三中出身です。三年間、よろしくお願いします」
俺がぺこりと頭を下げると、「トールちゃーん、かわいー!」という声が、不確定名・不良【その1】からあがった。
俺はそいつの顔を一瞥すると、両手で顔を潰して、思いっきり変顔を披露してやった。教室の中は一瞬静まりかえり――爆笑の渦に包まれた。
「トールちゃん、おもろ!」
不良どもも顔を見合わせて笑っており、さっきまでのギスギスした雰囲気は和らいだように思う。よし。まあ、一番手の役目は果たしただろう。
俺が椅子に座ると、今度は井原が立ち上がって、緊張した面持ちで自己紹介を手早く済ます。不良たちも次々に名前と出身校を告げていった。
「ほんじゃ、これから土木科で使う教室の説明をするぞ。その後、教材もらって解散にするから、お前らちゃんと付いて来いよ」
木戸先生の指示で何やら専門的な機材が並ぶ教室を巡り、最後の部屋で教科書や作業着などを受け取った。
「うわぁ、作業着だっせー。にしても、思った以上に普通教科あるんだなぁ」
と、井原がちょっとうんざりした顔をする。
「学年があがると、専門教科が増えるらしいけどね」
そう答えると、井原は「ほぉ〜」とうなずいた。知らなかったのか。滑り止めで入ったらしいから、そんなもんなのかな。
「……っと、全員いるな? 教科書、全員受け取ったな。じゃあ、今日はこれで解散だ。ちゃんと明日は朝から来いよー」
木戸先生の声で生徒が部屋から出ていく……と思ったら、大半の生徒は教室の机の中に教科書を入れに戻ったようだった。
お前ら……勉強はしないのか……。いや、愚問か……。
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