透、遭遇する! 14 那由は馨の後ろからようやく出てきた。 白い小花の刺繍があしらわれたベージュのワンピースが那由の可憐さを引き出して、とても似合っている。 ちなみに誰も興味はないかもしれないが、俺はオレンジのハーフパンツに薄手のパーカーだ。 「あのっ、以前……助けていただいた者です。あの時は本当にありがとうございました……!」 頬を染めながら頭を深く下げる那由。 早川は直立不動だった。不審に思った馨が早川の目の前で手を振るが、反応はナシ。 「おーい、早川ー。帰ってこーい」 いつまでも無反応な早川に業を煮やして、俺はみぞおちに肘鉄を打ち込む。 「グハッ! ……はあっ、はあ……」 ……どうやら息をするのも忘れていたらしい。 「あのさ、早川。今さらこんなことを言うのも何だけどさ、今までおかしいとは思わなかったのか?」 「な、何が?」 早川はちょっと涙目で俺を見る。俺はひとつため息をついて、言った。 「俺が、お前に『助けられた』という大前提」 「……あ!」 鳩が豆鉄砲くらったような顔とはこういう顔を言うのだろうか……。 俺が武道を嗜んでいることは、さすがに早川も気が付いている。何たって、こいつのボスですら落としたのだから。 その俺が、その辺の不良に囲まれたからといって、そう簡単に屈するわけがない。 「妹を助けてくれて、ありがとな」 「…………」 「なかなか言えなくてごめん」 「……いや……俺がアホすぎる……」 駅前で会った時の笑顔はどこへやら。早川の顔色はもはや土気色だった。 「早川さん……兄のこと、怒らないでくださいね。私が弱いせいで、兄はいつも無理をして。でも、早川さんを惑わすつもりではなかったんです」 那由は落ち込む早川の袖を指先で引っ張りウルウルと見つめた。 計算ナシでその表情が出来るとは怖ろしい子。 早川の顔はボンと爆発するように真っ赤になった。 [*prev][next#] [戻る] |