透、遭遇する! 8
翌日、沢木の顔色は真っ青だった。
昨晩のうちに、早川に遭遇したことは報告して謝っておいたのだけれど、かなり心配をかけてしまったらしい。
「トールちゃん……昨日の話って、マジなのか……」
「嘘をついた記憶はないけど、何の話」
「だからっ、義家にケンカ吹っ掛けたっつー話!」
沢木が声を荒げると、離れていたところで騒いでいた不良サンたちまでもが、一瞬の沈黙の後にザワッとどよめいた。
俺は沢木を引き寄せて、小声で話す。
「吹っ掛けてないよ。人聞きの悪い。ケンカを止めただけだ」
「アイツにそんな理屈は通らねぇよ。義家だぞ?」
「どんな言われようだ、アイツ」
思わず苦笑する。
「……でもま、大丈夫だろ。早川が裏切ったって誤解してただけみたいだし」
俺があっけらかんと言うと、沢木はハァ、とため息をついた。
「誤解っつーかよ……早川のヤツ、俺らのたまり場に一人でノコノコやってきてさ、トールちゃんが義家に狙われてるから、一人で出歩かないよう伝えてくれって言ったんだ。裏切り者扱いされても仕方ないだろうが」
は、早川……。無茶しやがって。
「でも、それも俺が沢木ンとこの人間と勘違いしてたからだってよ?」
俺がそう言うと、さすがに沢木はバツの悪そうな顔をした。
「トールちゃんが無事ってことは、実際に誤解だったのかもしんねぇけど……。何より俺は、義家を相手にして無傷ってのが信じられねぇ」
ほとんど独り言になっている沢木の言葉に、俺は頭をかきながら答える。
「俺が相手だと十中八九侮ってくるもんなんだな。ぶっちゃけ女顔のチビってコンプレックスだったけど、相手も本気じゃない限り負ける気はしない」
「……ま、トールちゃんが格闘技やってると一発で見抜くヤツはそういねぇだろうな」
「不本意ながら」
俺はもはや諦めた表情で、ハァとため息をついた。
その会話をすぐそばで聞いていた井原は、「なんか遠いよ足達……」と呟いていた。
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