透、キレる! 7
結局、教室にたどり着く頃には、授業開始時間より10分以上経っていた。
俺たち3人の姿を見た木戸先生のこめかみにピキピキと青筋が走り、鬼のような形相で沢木を睨みつけた。
授業に遅れたことに怒っていたわけではなかった。
「北斗に何しやがった?!」
頭から血を流している沢木と、頬を腫らして唇の端に血を滲ませる井原。
どこからどう見てもケンカの後である。
この中で実際に手を出したのは俺だけなんだけど……。
まあ、俺は無傷だ。
井原が慌てて、「自分が絡まれたところを沢木がかばってくれた」と弁解すると、まだ疑いの表情を浮かべつつも、「塔矢と北斗は保健室へ行け」と命令した。
塔矢ってのは沢木の名前だ。
フレンドリーがモットーの木戸先生は、生徒を名前かあだ名で呼ぶ。
「んで? 透。俺の可愛い生徒を痛い目に遭わせたのは、どこの誰ヨ?」
木戸先生はそう言って、指の間接をボキボキと鳴らした。
ちょっと。そこの元・伝説の総長さんとやら。おっかねーよ。
つーか、チクったら逆に俺がシメられるよな、コレ。
「ぶっちゃけた話、俺に不良サンの区別つかないです」
そう答えると、木戸先生はチッと舌打ちした。わー、ガラ悪っ。
「確かに透や北斗はこの学校じゃ絡まれやいタイプだからな……。次に何かあったら、すぐに連絡しろよ。あとで俺のケータイ番号教えたるわ」
きっと俺を安心させようとしたのだろう。
木戸先生は俺の肩をバシバシ叩いた。痛いよ!
でも、沢木が崇拝する一人だけあって、本当に頼れる先生なのだと思った。
「……ありがとうございます」
先生の優しさに、ちょっと心が痛んだのは秘密だ。
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