透、キレる! 6
「つか、トールちゃんが謎すぎるんだけど」
改めて、沢木がそう呟いて唸る。井原もウンウンとうなずいた。
「う……忘れてよ」
「無茶ゆーな」
沢木に睨まれて、ハァとため息をついた。
「……俺な、格闘オタクなの。ご覧の通り、俺ってば女顔のチビだろ? それがイヤでさ。小さい頃から格闘技を習ったんだ」
「なーるほどねぇ。男としてそれはわからんでもないな。……で、何習ってたの」
「小学校の時は空手。中学では柔道をちょっと。合気道はずっとやってる。あと、趣味で親父とプロレス」
沢木と井原が同時に吹いた。
「よ、よくそんなに……」
「空手は市民サークルだから安いんだよ。合気道は親の知り合いに道場主がいて、そこを特別にタダで使わせてもらってる」
「金銭的な問題じゃ……いやいい」
沢木は言葉を濁して、肩を落とした。
「まぁ、トールちゃんがアホみてーに強いのはわかった」
「俺、そんなに強くないよ。身長も体重も足りないから、パンチ軽いもん。掴まれたら終わりだし。急襲が成功しないと、こんなにはうまくいかないよ」
「謙遜、謙遜」
「ほんとだって。……でも、ごめんな、沢木。学校で喧嘩すんなよ、なんて言った俺が……」
「ぶはっ、ほんとだ!」
思いっきり吹き出して笑い始めた沢木に、俺はちょっとホッとした。
「いやー、先輩相手にあんま目立つな、って《カブキ》の先輩から釘刺されてたんだけどよ。まさかトールちゃんに助けられるとは思わなかった」
「俺だって、お前が殴られてるのを見てキレるとは思わなかった」
「おっ? 急に愛に目覚めた?」
「アホか」
俺たちがやり合っているのを聞いて、井原が目を潤ませながら「二人とも、ほんとありがとな」と改めて礼を言った。
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