透、キレる! 1 「あだ、足達っ、昨日は大丈夫だったのか?!」 教室に入ると、井原が俺の元に駆け寄ってきた。 うーん、忠犬って感じ。俺は思わずヨシヨシと頭を撫でてやる。 「平気だよ。喧嘩にもならなかったし」 「そ、そっかぁ。よかったぁ。心配になって校門の方に戻ったんだけど、誰もいなくてさぁ……」 ちょっとナミダ目の井原。ヨシヨシ。なでなで。 「心配してくれてありがと。でも、わざわざ修羅場に戻っちゃダメだろ?」 「足達の方が先に飛び込んでったじゃないかぁ……」 「勝算あったからね。そうでなきゃスルーしてたって」 俺の笑顔に、井原は少し不安げにしながらもようやく納得したようだった。 席についてしばらくすると、沢木が教室に入ってくる。 俺の席は廊下側一番前、扉のすぐ横なので、登校してきた生徒とはどうしても顔を合わせることになる。 井原の身体がビクッと跳ねて、机の上に突っ伏すように視線を逸らした。 どんだけチキンなんだ、お前は。 「おはよう、沢木」 「……ハヨ」 「今日は早いじゃん?」 「ま、ちゃんと卒業したいからな」 そう呟く沢木に、思わず笑顔を浮かべてゲンコツでどつく。沢木も口をとがらせながら俺のこめかみをグリグリ押してきた。 「3年間よろしくな」 「おう」 そう言って、沢木ははにかむように笑った。 「足達って底知れない……」 後ろの席で井原が小声で呟いたのが聞こえた。 見た目が怖そうだからって、悪いヤツばっかじゃないんだぞ、井原。 まあ、チームで何やらやってる時は知らんけど。 自分で見て感じたことだけ信じて、ひとりの人間として接していればいいんだよ。 相手が隠していることまで想像して、勝手に怖がるのは、失礼なことだと思うんだ、俺は。 [next#] [戻る] |