透、入学する! 1 「ん。よし!」 俺は鏡を見ながら、真新しい詰め襟をきっちりと着込む。 今日は高校の入学式。どこから見ても、真面目な美少年だ。 自分で美少年と言うのも寒いが、俺と同じ顔の妹はどこの誰が見ても美少女なので、自分の見た目については少々自覚している。 「わかー!」 背後から巨大生物が飛びついてきた。 振り向きもせずにグーで殴る。 「イタイです、若……」 鏡の中で、江本さんが鼻を手で押さえながらナミダ目になっていた。 「朝から鬱陶しい」 この江本さんは我が家に住み込みのお手伝いさん。みたいなもの。 実際は親父の会社の社員。一見ホストくさい優男だが、家事が得意で重宝している。 「若、いかんです。こんなにちっちゃくて可愛い子がハチコーなんかに行ったら、3日と持たずにパックリ食われます!」 「どんな学校だそれは」 「若はご自身の魅力をわかってないんです!」 「やかましい、黙れ」 江本さんを優しく蹴り飛ばして部屋の隅に片づけていると、俺の背後から巨大生物【その2】が襲いかかってきた。 「トーオールー、今日から中学校だったか!」 「高校だ、ボケナス! はーなーせー!」 抱擁という名の鯖折りをかましているのは、俺の親父。五分刈りの頭に無精髭をはやした、2m近くある筋肉だるま。 ちなみに俺は、自分で言うのも悲しいが、チビだ。 整列する時に「前ならえ」をしたことがない。ぐすん……。 俺がこの筋肉だるまの息子というのは未だに信じられないけれど、母親は俺よりさらに小さいので、どうやら血の配分をちょいと間違えたようだ。 ちょいとチビで美少年の俺。足達透。 この春から八坂工業高校、通称「ハチコー」に通うことになった高校生だ。 [next#] [戻る] |