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良い夢を、お姫様

3Z




「志村姉」

やる気のなさそうな声を出し、少女の名を呼ぶのは、クラス3年Z組の担任。
坂田銀八。

その教師が呼んだ名の少女はというと、
机の上に日誌を開き、すーと寝息を立てて眠っていた。


「おーい」

「しーむーらー」

「……」

反応なし。
すっかり寝入ってしまった彼女をどうしてやろうか。
教師としては、肩を叩いて目を覚まさせ、下校を促すのが務めだが。
生憎銀八はそんな普通の教師ではない。
授業は授業をする振りをしてジャンプを読む時間だ。


「まな板な志村さーん」

「可哀相な卵しか作れない志村さーん」

「……」

クラスの真面目な委員長。
怒ると手に負えなく、彼女の料理は兵器並の威力を持つ。
胸元にコンプレックスを持ち、その事に触れようものなら地獄行き。
今軽々と茶化して言えるのは、彼女が聞いてないであろうから。


「ったく。黙ってりゃそれなりに可愛気あんのに…」

容姿はそこそこ、いや、かなり良い方だ。
いつもポニーテールを揺らしながら、瞳は真っ直ぐ前を見据える。

そんな彼女が振り向くと天使が降りてきたような感覚に陥る。
彼女の笑顔も勿論良いが、もっと見てみたい。恥ずかしそうな顔、泣き顔、驚いた顔。
彼女のことが知りたくて。

だから、

「けど、どうしても……な」
「……」
「なあ、聞こえてる?」


相変わらず彼女の瞳が開くことはない。
銀八の声に気づく様子は窺えない。
気づいたら気づいたでいろいろ面倒なので、ホッとした。


「……」
「…良い夢見ろよ」


それから掌に口づけた。
夢に自分が出てくるように、と。


寝顔が見れた、一つ彼女のことを知った今日。

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