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真冬の味わい方

冬はなんで寒いんだ、
家の中も外も寒い
ぬくぬくとこたつに入って銀時はそう呟いた。

「人の家のこたつに勝手に入って何言ってるんです?」

そこに現れたのはそのこたつの家の住人である妙だった。

「こたつから一歩でも離れたらの話。冬はこいつがなきゃ生きていけねーな」
「たまには子どもたちと一緒に走り回って遊んだら?体も温まりますよ」

そう言いながら妙も障子を閉め、こたつに入っていった。


冬一番の寒さが歌舞伎町に舞い降りた。
誰もが毎日毎日、飽きもせず同じ言葉を繰り返し呟く。
分厚いコートを羽織り、マフラーに手袋、マスク、帽子まで身に着けた完全防備な人間もたくさん見掛けた。
ああ、冬はまだ終わらないものか。

「あ、そういえばね、昨日新ちゃんが小豆の缶詰買ってきてくれたんです」
「ふーん、おしるこでもすんのか?」

ニコニコと銀時を無言で見つめる妙。

「……はいはい。作ればいいんだろ、作れば」

銀時はゆっくりこたつから出て、身震いひとつ。

「さっむ!死ぬ!!」
「はいはい、一昨日もその前も聞きましたから」

妙は立ち上がると、羽織りを銀時に掛けてやった。

「これ着て頑張って下さいな」

その羽織りは、去年の12月に妙が大掃除の際見つけたもので、銀時がこの家にいる時は愛用している。

銀時はいそいそと台所に向かった。

――――――――――――――

鍋に水と小豆の缶詰とを煮立て、砂糖で味を調整する。
レンジで餅を柔らかくし、おしるこの中に入れると出来上がり。
至って簡単な作業だが、妙の手にかかれば真っ黒な物体と化すのが当然だろう。

銀時は火元に手を当てて、それを温めようとする。
これを飲めば体もあったまる。

「砂糖醤油もいいし、海苔をあぶって巻いてもいい」
「あんこやきなこも捨てがたいな…んー」

レンジの中の餅を見つめながら、銀時の中で餅の食べ方の欲求が膨れ上がる。

ぐつぐつとおしるこが沸騰し、火を弱め、小皿に一口取って味見を。

「…うん、こんなもんだろ」

結構な甘さとなったようだ。
といっても甘甘党な銀時のことだから、砂糖をふんだんに使って甘さ激増だろう。

チン、と音が聞こえ、レンジから餅を取り出し、おしるこの中にぽちゃんと。
餅が固くならないよう、すぐに居間へ向かった。

――――――――――――――

「おーい、できたぞ…」

足で障子をスライドさせて中に入る。
が、待っていた女は幸せそうにこたつで寝ていた。

「…ったく。自分だけぬくぬくと」

はあ、とため息を零し、妙の近くに寄り、起こそうとした。

「おい、お妙」
「……ん」

妙は徐々に目を開いていき、瞬きを2、3回。
顔は少し火照っていた。

「……あれ、銀さん…?」
「ぜんざい作ってきた」
「ありがと…ございます…」

ふにゃあと笑う妙はまだ眠気が取れていないようだ。

「餅固くなるから、早く食べようぜ」
「はい……」

妙は、ふわあっと手を口に当て欠伸をひとつ。
机には湯気立つお椀がふたつ。

「いただきます」
「ます」

お餅は少し柔らかさを残していた。
ずず、とおしるも飲み、ふう、と一服。

「おいしいわ」
「当たり前だろ」

俺が作ったんだから。

「そうですね、あったまります」
「甘くて、銀さんの匂いがするわ」

その甘い匂いにくすぐられるような感じがして、妙はにっこりと微笑んだ。
"甘すぎる"と文句が聞こえることもなく、ふたりでおしるこを味わった。

――――――――――――――

「ご馳走さまでした、銀さん」
「また作って下さいね」
「気が向いたらな」

食べ終わったお椀ふたつを重ねる。

「…今度も来年もその次の年も、ずっとですよ」
「…気が向いたら、な」




おしるこでも食べながら、ふたりでまったり。
そんな真冬の味わい方。


「次は餅に砂糖醤油でもかけてみっか」
「ええ、いいですね」


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