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メロディリアリティ

それまでは不安定な感情だった。今は一つ一つ胸で音がなる。ポロンポロンとピアノを弾くようなリズムに似ていた。


私は自分の頬を撫でた。僅かに熱い。
きっと冬が少し和らいだこの気候のせいだと言いたかった。頭の中では必死に悪あがきしてみせた。
けれど、彼の前では意味を成さなかった。


「それじゃ、次はお前からな」


"それじゃ"の意味が分からない。どんな経緯でそうなったのよ。だってそっちが勝手にしてきたのでしょう?どうして私もしなきゃいけないの!



「お妙からしないと、口にさっきよりキツくて濃いのするけど?」


スルリと私の輪郭をなぞったその指に、ぞわりと微かな震えがした。どうして手が出ない殴らない。ああ、彼に掴まれているからか。じゃあどうして振り払えない。
そこにいたのはいくら小娘が足掻いても適わない、大人の男だったから。


「…っ、どうしてよ」

「認めろよ」


この曖昧さを認めた上で言葉に表す前に、行動で示せというのか。
瞳に力を込めて見上げたけれど、それも無意味だった。
逃げ出したい。彼の前から逃げ出したい。視界から私を消して。


「お妙、早く」

遠ざかりたいと思うほどに、彼は近づいてくる。
もし、彼の中にもこの甘苦い波があるとすれば。


この先いったいどうなるのかしらとぼんやり思いながら、触れられたら私の右頬と反対側の彼の頬に、一瞬唇を当てた。




「どうして言ってくれないのよ…ばか」

弱々しく、泣き声とほぼ等しいその声を発した。
口づけは、好きな人同士がするものじゃない。好きか、そうじゃないか分からないのにしたって、苦しいわ。


「言わなくても分かって欲しかったんだけど。でも…ごめん」

「可愛くて、だから」


そう言った彼も、さっきより少し繊細だった。
ぱかり、私の心臓が開く音がした。一定の感覚で鳴るそれは、まるでメトロノーム。私たちの間で、どんなメロディーが作られるのかを。

どんな恋が始まるのかを示唆した。たちまち彼の音も聞きたくなった。


銀さんの小さな小さな声が耳元を揺らして、私たちは目を閉じ重ね合った。





こんなに甘い、砂糖の味のキス。私しか知らなくていいわ。


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