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Merry×2



世界にはいろんな不思議があるものだとルークは思う。
きっと探せば宇宙人だっているだろうし、もしかしたら天使とかもいるかもしれない。
根拠もないのに否定するほうが難しいものが世の中にはたくさんあるわけだ。
というかそうでなければルークが困る。
だって、サンタクロースは、いるわけで。
そう、サンタクロースは存在している。
たとえ、長いお髭がはえてなくても。着ている服が赤くなくとも。微笑むその横顔が胡散臭くとも。
そう、ルークはサンタクロースが存在していることを知っていた。
もちろん子供のころから信じているとかって意味ではなく、ただ、知っていた。
一年前からだ。
一年前、ルークは世にいうサンタクロースに出会ったのだった。
そのサンタクロースの名前はジェイド・カーティスといった。
ちなみに、サンタクロースって名前じゃないのかっていう人もいるかもしれないが、あれは名前じゃなくて役職らしい。
「世界にどれだけよいこがいると思ってるんですか。それを一人とか…どれだけ非効率なことか」とはサンタクロース本人談だ。だから対象を…とか、名簿を、とかいってた。サンタクロースも大変らしい。
話がずれた。

そう、忘れもしない一年前、いろいろあってひろってしまったサンタクロースだ。
いやだってまさか川から落ちようとしている黒い服の男をみて誰がサンタクロースだと思い、なおかつ帰宅しようとしていると思うのか。
立派な自殺願望者としか思えなかったルークはついうっかりサンタクロースの帰宅を妨げてしまったわけだ。
しかも話を聞けば次に帰れるのは一年後。
衝動的に救おうとした行動はサンタクロースから帰る我が家をなくさせてしまったわけだ。
でも、だって、しかたないだろ!どうみても服は赤くないし、髭ははえてないし、うさんくさいし、トナカイいねぇし!
今時サンタクロースがそんな目立つかっこうするわけないでしょう、夢見すぎですね、叫んだらサンタクロース本人…つまり、ジェイドにそういわれた記憶も一年前。夢の世界にいると思っていた存在に夢見すぎといわれるとは、なんとも世知辛い世の中だ。
そんなこんなで家をなくしたサンタクロースを自分の家にひきとってから一年になるのかと街をみながら思う。
街はネオンであふれてどことなく暖かい。きらきらふわふわした光にクリスマス特有の音が踊る。
どことなくみんな浮き足立っている。
クリスマス、だなぁと思う。
今日は、クリスマスだ。年に一度しかない、特別な日だ。

思えば、色んなことがあったとぼんやり考える。
サンタクロースを拾って、妙に偉そうなサンタクロースに怒ったり、呆れはてたり、喧嘩をして家出してみたり(自分の部屋であるのになんでその主が家出をするのか今思うと謎だ)仲直りして二人して笑って。
最終的にどうやって送られてきたのかは謎だが、良いこへのプレゼントを配り歩いたりもした。
ありえないことばかりだったけれど、楽しかったなぁとお騒がせなサンタクロースを見て、思う。

全部、全てが、楽しかったし、ありえないことばかりだったけどこのサンタクロースがいた時間は大切だったんだと、思う。たった365日。だけれど。けど。

「…で、やっぱりここなのか。」

「まぁそうですね。」

しれっとした顔でジェイドは答える。去年と同じ橋の上。下を覗くとそこにはたしかに月の光りが浮かんでいた。
あの光が、サンタクロースにとっては帰り道らしい。こちら側の世界とサンタクロースの世界の道。
やっぱり意味わからねぇと呟くと、上司の趣味ですからとジェイドはなんでもないことのようにいう。

メルヘンだなぁ。

腐ってもサンタクロースですからね。

少しだけ、笑う。

「……なぁ、どたばたしてて実はさ、忘れてたけど冷蔵庫にちょっとふんぱつして買った豆腐があるんだ。けど、一人で食うことにするな」

「……何を話すかと思ったら…」

「いや大切だろ?ジェイドってサンタクロースのくせにこういう事うるせーし」
「…まぁいいですけど。私もいうの忘れてましたが、貴方が苦戦していた謎解きゲーム、クリアしちゃいまして。えっとたしか犯人は…」

「わーいうな!!」

えー
えーじゃねぇ!

わぁわぁと橋のうえで騒ぐ。
誰か知らない人がいたらすごい滑稽な二人組だろう。

そろそろですね、とジェイドはいった。それに頷く。
そろそろ、お別れだ。
楽しかったり、腹立たしかったり、嬉しかったりした。

「それでは、ルーク…お世話になりました。貴方のことは…好きでした。」

「…」

切ないような笑い方をしてジェイドはいった。
ずるい、やつだと思う。
最後の最後に。なんてやつだ。
ふわり、と浮いたかと思うと急激にジェイドが落ちる。それに衝動的に手をのばす。

「俺だって…!!」


きらきらと光っていた月の光が消える。それはそうか。迎える人物がその中に入ったのだから。
間に合わなかった手を静かに下ろしながらルークはただ、泣いた。




















サンタクロースというお騒がせで嫌みでそれでもたまに優しかった男が故郷に帰ってしまってからけっこうたった。まぁけっこう…といっても二ヶ月しかたっていないのだけれども。
あーぁとルークは苦笑をする。
別に、好きってわけではないのについ、買ってきてしまった食料…豆腐を見てまたやってしまったと思う。
それもこれもあのサンタクロースが豆腐豆腐とうるさかったからだ。
普段あまり食欲らしいものを見せなかったくせに。
今まで広いとか思ったことがなかった部屋を広いとか思うようになったのもあのサンタクロースの…ジェイドのせいだ。
二ヶ月もたったのに異常だろと思う。

「…しょーがねーな」

ぽつり、呟く。
今日は麻婆豆腐にでもするか。

「…いえ、この豆腐なら肉豆腐にしたほうがいいですよ」

「いやでもそれ用の肉、ねぇし。って…はぁ!?」

ただの独り言に帰ってきた言葉に振り替える。
そこには、うるさいとでもいいたげな男…サンタクロース…いやいやジェイドがいた。
先ほどまで思考を埋めていた存在に驚きが隠せないまま、なんでというルークにジェイドはすこし拗ねたようにいう。

「なんでといっても…ただ一年間いなかったせいでうっかり家の更新を忘れた、というしかないですけど。まぁそれもこれもあの時貴方が引き留めたせいなのでずっと責任とってもらおうかと思いまして。…もうめんどくさいですし。ということで、……これからもよろしくお願いします。」


はい、と渡されたプレゼント?引っ越し祝いらしき箱に、怒るというかもう呆れるしかなくなってルークは笑った。










あきゅろす。
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