[携帯モード] [URL送信]
饅頭の口直し 若旦那と妖



甘い甘い饅頭を一口食べながらぼんやりとする。
暇だ、なぁ暇すぎて死んでしまうよ。冗談にならなそうな言葉を饅頭と一緒に飲み込んでそれでも飲み込み切れず心の中で呟く。
そんな事をいったら最後、確実に二親には泣かれるだろう…歳をとっているはずなのにそれでもなお美貌を損なわずどこか消え入りそうな母おたえなんて倒れてしまうかもしれない、そして番頭に泣かれ、松之助兄さんに不安そうな顔をされ、二人の兄や達に怒られるのが必定だ。
それに仲良くしてくれている妖怪達にも泣かれてしまうだろう。
いや、死んでしまうかもなどといったら、若旦那が死んでしまう若旦那が死んでしまう、死んじゃいやですよぉ若旦那などと、もし、という話を通り越して自分が死ぬ前提で騒ぎだしてしまうかもしれない。
そしてその噂は生き物のように動き出し、尾鰭をつけ、それだけにはあきたらず何故か羽までつけたりして、天まで昇りいずれは神や仏が一太郎を迎える準備までしてしまうわけだ。

一般的には有り得ないが妖怪というものをよく知っている一太郎にとっては真剣にありえそうな考えにうなる。
なんてったって妖怪とは人の感覚とは少しずれている。
少し、という表現でいいのかというほど、もしくは少しという言葉にあやまらなければならないかもしれないぐらいにはずれている。
それぐらいには変で、それぐらいには愛されていることを自分は知っている。
私なんか風がふけばすぐ死んでしまうようなものなのにね、
ため息をつく。
自分の弱さは半永久の時をもつ彼等にはどう映っているのだろう。
怖い、なぁ
怖い、と思う。
彼等から愛されている事を知っている。
それも天下のお江戸を砂糖づけにしたように甘く、大事に思われていることを知っている。
たまに、限度をしらないけれどもね、
こちらが嫌になるほど底抜けに甘いのだ。大切に思われているのだ。
だからこそ、『怖い』

もし、もし私が明日にでもころっと死んでしまったらどうするのだろう。有り得ない話ではない。
病弱だから、とかいう理由じゃなくそう思う。
自分は薄く妖の血が混じっているといっても人だ。
彼等にしてみれば欠伸をしている間に消えてしまう存在に違いない。
それに、
それに自分はただでさえもう寿命がつきている。

こんな甘やかされて愛されて、いいのかね、

そう思う。
彼らは自分が死んだ後どうするのだろうか。
愛したものを失ったら辛いに決まってる。
見送るものは辛いものだ。
勿論いくものも辛い。
だがまぁ輪廻転生というものがあるとはいえ辛く感じる記憶というものはすぐなくなってしまうものだ。
たまに、それも持って生まれたという人もいるだろうが大多数の人は亡くしている。
それなのに、残されたものはその存在を忘れない。
いくらほこりを被して、布でしばっていても忘れるものじゃない。脳のどこかで覚えてるものだ。忘れたと本人は思っていても引き出しのどこに置いたのかを思い出せないだけで忘れたわけではない。
愛したものならなおさら、

辛い…

一太郎はそう思う。
そして何故自分も彼等と同じ時間の中で生きられないのか、と思う。
だってつらすぎるじゃないか。
皆自分に優しい。
あたたかい。
愛してくれているのだ。
それなのに、

「何故私はただでさえ人なのに、その中でも貧弱なんだろうねぇ」

「しかたないですよ、若旦那。
あ、それをお食べになったら、これを飲んでくださいね。そうすればもう少し元気になるはずなので」


残さないでくださいね。

にこりと笑う色男の兄やの手にある何が入っているのか皆目検討もつかないような色をした薬に一太郎は苦笑いをした。










饅頭の口直し













第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!