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原因はただ不可解だと首を傾げる







やはり彼女がついてきている事に気付いた時引き返すべきだった。

熱く、どくどくと心臓が動くたびに痛む。
これをつけたのは錆びれた刀だったらしい、その傷をつけた怨霊をみながらちっと舌打ちをする。
じわりじわりと時間がたつにつれ痛みが増すのを感じる。

どうせならよく切れるもを使ってくれればよかったのに、なんて暢気に思い、クスリと笑う。
本来なら避けようと思えば避けられた。
だが、そうしなかったのは単純に避けたむこうに彼女が、神子が、護るべきだと思う少女がいたからだ。
彼女が怪我をするだろうと思った瞬間反射する体の主導権を絶対的な理性で押さえ付けた。
美しいものを守ろうとする本能、のようなものだったのだろう。
美しい彼女が傷つくのが耐えられなかったからだ、なんてくさいことを本気で思う。(まぁ守りながらも避けられなかったのは自分の未熟ゆえだが、)

じくじくと痛むが特に致命傷になるようなものではないと判断しそこから目をはなす。
負傷したのが足でよかった。
これならば自分が身につけている黒いフードで隠しきれるだろう…優しく血を流す事がない世界から来た彼女から。

はぁ、と息を抜き、いつも通りにこりと作り慣れた笑顔を作った。
槍を構え直す。
その一連の動作をいつの間にかこちらを向いていたらしい少女がじっと見つめていた事に気付く。
にこり、真意がつかめないといわれる笑顔を作る。


「………望美さん、どうかしましたか?」

どこか怪我をしたのだろうかと、逸れる事のない真っ直ぐな瞳を見つめ手を延そうとする−−−−が、先程自分の赤で汚れた事を思いだしにこり、と笑いながら手を戻す。
例え自分の赤であっても、(だからこそかもしれないが)この少女を汚すわけにはいかない。


「弁慶さん、ち……?」


すん、と鉄のにおいを、かいだ。
ばれてしまったかと思いながらごまかすようにまた、にこりと笑う。
この少女は妙に、聡い。
いや聡くなった、という表現が正しいか。突然聡くなったのだ。


「弁慶さんの血、ですか?」


「…別段気にするものではありませんよ」


くすりと安心させるように、笑う。
途端、少女の目が揺れる。まるでなにかを思い出しているかのようだ。
何を?
疑問に思う。
彼女は血を知らない。美しい幻想のような世界からきたのに。


ふらり
何かに導かれるように自然に少女は刀を構えた。
切っ先は先程の怨霊に向けられている。


「……」


小さくなにかを呟く。
ゆっくりと美しく彼女の切っ先が線を描く。
何度も何度も
何かを否定したいとでもいうように、何度も、


「……望美さん、」

望美さんともう一度彼女の名を呼ぶ。
思わず血がついた手で彼女の手首を掴む。
あぁ汚してしまったと心中で思う。

どうしよう、どうしようまた、
彼女はいった。
またとは何がだろうと思いながら大丈夫ですよ、と囁く。(何が大丈夫なのかは自分でもわからないがそういわなければいけない気がした。)

彼女は崩れた。
ぺたり、と
弁慶さんは嘘つきだから、と唇が震えながら音を作った。
表情は見えない。
泣いているのか。

帰りましょうと掴んだ手をゆっくり離し呟いた。

ぽたり、ぽたりと血が落ちるのを他人事のように見る。

それよりも気掛かりなのは、彼女だ。
彼女は何に怯えているのだろうか。
わからない。
何をそんなに、




やはり彼女がついてきている事に気付いた時引き返すべきだった、ただそれだけをぼんやり思った。










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