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君の破片を大切にしまいましょう



「あー…」

ジーーー

『あー…』





「…」




「…ジェイドの馬鹿ー」

ジーー

『ジェイドの馬鹿ー』







「アハハハ、貴方よりましだと思いますがねー」

「!!?」

うぉ、ジェ、ジェイドと紅い髪の子供が呻く。
それににっこりと笑うと子供がいるならいるっていってくれよな!ア、ハハハと渇いた笑いを漏らした。
それはすみません、先程通りかかったものですからつい、というよりここは私の割り振られた部屋だったのではないかと記憶しているんですが、気の性ですかね?
嫌ですねー記憶があやふやになってしまったようで年は取りたくないものです。
息継ぎなしで厭味をいう大人にう、と子供が言葉をつまらせ、ごめんと呟いた。
子供が下を向いて覗かせた紅い髪のつむじを見てま、しかたありませんね大丈夫ですよとそれはそれは胡散臭い笑顔で笑う。
信じられない、と子供の表情が物語った。
その表情に手近にあった椅子に腰かけながらにこやかに笑ってやる。


「で、一体何をしていたんですか?」

「いや、ガイがまた譜業をいっぱいもらってきててさ」


いっぱいあるからってこれ、貰ったんだと片手に納まっている譜業を見せた。
なるほど、と納得する。
『音を記憶する』
この手の譜業は珍しいものではない。
世の中のほぼ全員は知っているようなものだ。
しかし、幼い頃…というより生まれてからずっと屋敷という籠の中で過ごしてきたこの子供は見たことがなかったのだろう。
恐らくこの子供は興味深々でそれを見ていたに違いない。
そして子供に甘い使用人はそれに気付きこの譜業を子供に渡した、という所だろう。
なんでこれ俺の声出るんだろうなと、首を傾けている子供を少しだけほほえましく感じる。


「…教えてあげましょうか?残念ながら本職じゃありませんからわかりにくい部分があるかもしれませんが。定義やら記号やらたーくさんでますけど」


どうです?と聞くと、いやイイデス、と紅い毛を振った。
素直な反応についクスクスと笑う。
馬鹿にされてると思ったのだろう、その笑みに少しだけムッとした表情を作った子供の手に納まっている譜業を手に取る。
どうかしたのか、とでもいう顔に笑みを浮かべ記憶を読み取るスイッチを押す。


「ルークはアホですよー」


あまり予想していなかったのだろうその言葉になっジェイド!と赤くなりながら怒っている子供の耳元で『ルークはアホですよー』という譜業で録音した声を流した。
しばらく何度も再生された譜業を必死で追いかける子供を楽しんだ後しかたないですねー、とまるで大人のような表情で(ここに自分達以外のものがいたら大人げないというだろうが)その紅い髪をなでながらこの譜業に残した声は一生残りますから気をつけて下さいねと胡散臭いとよく言われるような笑みで譜業を渡す。
なんだか釈然としない、というような顔をするのを楽しんで眺めた。





−−−−−−





なつかしい、そう思う。
あの時の譜業がこんな所に潜んでいたとは。
どこかから紛れてしまっていたのだろうか
そうかこれだけは残ってくれたのかとクスリ、と笑う。
なにもかもを、…自分自身さえも残さなかった子供。
その唯一残された、破片。
そっと再生ボタンを押した。
ジーーという譜業特有の音の後に、恐らく試しだろうあーーだのうーーだのと言う声が届く。
それにあの子供らしいな、と笑みをもらす。
しばらくしてから譜業から自分の声が出る。
あぁ、こんな楽しそうな声をしていたのか、と他人事のように思った。
本当に、楽しそうだ。

ジーーという沈黙がなる。
どうやらここで終わりにしたらしい、と停止ボタンに触れようと手をのばす。
ふいになにか小さい音が譜業からもれた。
片手で納まる譜業を持ち上げ息をも殺して耳を澄ました。


「    」



カチリ、今度こそしっかりと停止ボタンを押す。
と同時に小さく息をはいて、譜業をそっと机に戻し、馬鹿ですねと笑った。




君の破片を大切にしまいましょう(そうして馬鹿だと笑いましょう)




勝手に机ん中いれてごめんな、ジェイド でもお前に俺の生きた証拠を残して欲しいんだ(忘れないで欲しいんだ)と子供の破片はそう言った(忘れられるはずがないのに)



あきゅろす。
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