どこに帰りましょうか
※ジェイドの死を匂わせる表現があります。
子供がこの世界から消えてしまったのだと悟るまでどれほどの時間が必要だっただろうか。
長いようで短い気がした。けれどそれは周りにとってはおそらく信じられないような時間を費やしたのだろう。
ジェイドは案外にぶいよな、困ったような笑い方(いつの間にそんな表情を覚えたのか)をしながらその当人にいわれたことを思い出す。彼がいうには聡いくせににぶいらしい。それになんと返したのだったか。おそらく貴方はにぶいだけですがなどといったのだろう。そういう意味じゃないとかなんとかあの子供は憤慨したに違いない。思ってくすりと笑う。さて、どうしようか。ふむと一つ頷いてやり残したことを考える。どくりどくりと命が流れていくのを感じながら頭だけは冷静に。
自分でいうのもなんだが、今までろくでもない生き方をしてきた。なので、おそらく自分はろくでもない死にかたをするのだろうとは思っていた。くすり、笑う。たしかにコレはろくでもない。それなりに恨みもかってきたのでどうしてこうなったのかもわからなかった。心当たりが多すぎる。
(…ジェイド?)
子供が名前を呼ぶ声が聞こえた。真っ白になっていく世界での子供の姿は透けていて少し苦笑する。まるで幽霊だ。こんなときぐらいはっきり現れればよいのに。そう思って、あぁ自分の中の彼の記憶がうすれているからこんな姿なのかもしれないと、思った。どんなに忘れたくなくても生きていると忘れてしまうことがあるのだ。生きるために、生きていくために。なぜなら彼はもう。
「…イド、ジェイド!まったくいつも夜遅くまで調べ物とかしてっからこんな所で寝るんだぞ!」
「…ルーク、ですか?」
「寝るならちゃんとベッドで…ってジェイド、ほんとどうしたんだ?」
「寝て…?」
まだねぼけてんのかと子供は笑う。周りをみるといつも通り、研究資料と殴り書きのメモでうめつくされていた。
レプリカについて、ビックバン、たしかに自分が研究していたものたち。
「しょーがねぇなぁ、ほら」
帰ろうとルークはジェイドに手を差し出す。その手をとりその場から立ち上がった。たしかな体温を、感じてジェイドは瞳を閉じる。
「…どうやら夢をみていたようです。」
どんな?と聞く子供に秘密ですーと返す。なんだそれと呆れるような表情の子供にただ、純粋に笑った。
男は路地裏にあったそれをみる。それはそれなりに地位が高い人物であったらしい。
彼はかの有名なレプリカの技術を作り出した天才だった。たしか、禍々しい異名を持っていた。
ざーざーと雨が降る。
男は動かない。いや、動けないのかもしれない。
ざーざー
彼は彼の瞳の色と同じ色で周りを染めていた。
苦悶の色をしているだろうとその顔をのぞく。
しかしそこには穏やかな笑みが浮かんでいただけで。
ざーざーと変わらずに空は泣いていた。
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