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現実主義者の現実逃避



少し前、朱い子供が世界の贄となって消えた。
皆罪悪感からか、何故彼等が贄にならなければならなかったのかと口々に呟く。
当たり前だと、思う。
当然だ。
あの子供はこの世界を愛していた。
誰よりも
贄にされるというのに綺麗だと両手を広げて笑っていた。
愛してくれたものを嫌うものなどいない。
だからこそ皆、彼を愛していた。
死なないでと帰って来てほしいと、告げた。
しかし、この男だけは、そう告げなかった。
それは男が1番現実を知っていたから。
自分は冷たいんですとその男は笑った。
よく知らないものはその通りその男は冷たいのだといった。
いやたしかにそうかもしれない。
けれど、あいつはあの朱い子供を愛していたと男の事を人よりよく知っていると思っている男は弁解する。
愛していた。
この男も愛していたのだ。
あの子供を

しかしだからこそこいつは、



「…なにやってんだ」

朱い瞳がこちらを向く。
にこり、とその口を歪ませた。
それに眉を寄せる。


「どうかしましたか陛下」

「どうかしましたかじゃないだろ」


なんだよそれともう動かない生き物だったはずのその残骸を指しながら鋭いよく通る声で(彼らしく、そしてそれ以上に彼らしくない暖かみのない声で)問う。
にこりと笑ったままあぁ、と男は呟く。


「これはこの世界で犯罪を侵したので」


処分してましたと淡々といった。
処分か、と音にせず口だけ動かす。
たしかにそこにあるものは犯罪者だろう。
国の中でも薬やらなにやらの主犯として犯罪者と認定していた。
だが、


「…その者にはまだ聞き出さなければならない情報があった」

「そんなもの関係ありません」


何を言っているのだというふうに男はいった。


「あの子供はこの世界を綺麗だと笑っていた。
だから綺麗な世の中でなければいけない。
…汚れてたりしたら悲しむでしょうからね。
それなのにアレは世界を汚した。
この美しい世界を
あの子が守った美しい世界にアレは必要ありません。」


だから、汚れの原因はすぐに処分しなければいけないでしょう?とにこりと笑ったまま槍を下に向ける。
したしたと赤いものがその尖端から、落ちる。
それを変だとでもいうように赤い瞳がじっと見つめている事に気がつく。


「…どうしたジェイド」

「いえ、あの子の髪と同じ色をしていると思いまして」



不思議ですね、あの者からあの子と同じ色が出るなんて、と男は贄になってしまった子供を思って瞳を緩ませた。






現実主義者の現実逃避



空、綺麗だなジェイドと子供は笑った。





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