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ジョロウグモ

家の柿の木に女郎蜘蛛が住み着いた。
そいつは二匹居て、一匹はとても小さく、逆にもう一匹はとても大きかった。
多分、小さい方が雄だろう。
二匹は仲が良く、蜘蛛の巣にかかった小虫を寄り添いながらよく食べていた。
偶に、私が蟻や蛾やトンボを捕まえては、わざと巣に絡ませて与える事もあった。
なんとなく、その二匹が羨ましかったのだろう。
独り者の私は、半ばその二匹の蜘蛛に叶わぬ願望を投影していたのかもしれない。
そして二匹が獲物を食べている様子がとても微笑ましく、
何時までも飽きずに眺めているのであった。
ある昼下がり、私は隣町まで行く為、庭に置いた自転車を動かした。
長い間使っていない籠には無数の蜘蛛の巣が張り、
綿飴でも作る様に指先をくるりと回して絡め取った。
ふと、甘い香りが鼻をかすめた様な気がした。
秋の心地好い風が、私の口元へ其れを運んだ。
ざらりとした食感、甘さが一瞬にして溶けていった。
ふと遠くを見ると、可愛らしいお嬢さんがこちらへ手を振っていた。


小さな女郎蜘蛛は、子作りをする大きな女郎蜘蛛の為に総てを差し出した。
大きな女郎蜘蛛は慣れた手つきで小さな女郎蜘蛛を綿飴の様に包み込み、
惜しみなく貪りだした。

それは必然で、容赦無く、小さな蜘蛛はそれだけで精一杯だった。

願望は叶った。
二人が一つになった

されど、哀しみは無い。


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あきゅろす。
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