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太郎くん
3

「幸治、ごめん」
「…何で、太郎くんが謝るの?」
「俺、前から何となく気付いてたんだ。学校で、上手くいってないの。幸治って、嘘下手だし」

苦々しい表情を浮かべた太郎くんが言いはなった言葉に、サアッと血の気が引くのがわかった。
そんな、気付いてただなんて…じゃあなんで

「気付いてて、何も言わなかったの?」

俺、すげえ惨めじゃん。
思わず涙が溢れそうになり、唇を噛み締めてうつ向いた俺の頬に、ひんやりと心地よい太郎くんの手が触れた。

「俺は待ってたんだ」
「待って、た?」
「幸治が、俺を頼ってくれるのを」

太郎くんはどこかウットリとした表情で俺を見つめ、柔らかな唇を俺のそれに重ねた。

「太郎、くん?」
「やっと言ってくれたな、助けてって。俺が助けてやるよ。だからもう、俺から離れんな」
「でも、そんな訳にいかないよ…学校違うし…」
「俺が行く」
「え?」
「幸治が辞められないなら、俺が幸治の学校行く」
「…ありがとう」

本気、じゃないよね。
でも、そういって貰えるだけで嬉しくて。俺は素直な気持ちで、太郎くんにお礼を言った。
すると、太郎くんは女の子が見たら気絶しちゃうんじゃないかって位の甘い笑みを浮かべて、俺にぎゅうぎゅう抱きついて胸元に頬を擦り付けてきた。犬みたいで可愛い、けど…

「痛っ……」
「あ、ごめんっ…!」

会長に殴られ蹴られた箇所がズキズキ痛んだ。

「へ、平気…っうわ!?太郎くん、何してっ…」

脇腹に温かくてヌルリとした感触が這い、思わず奇声を上げてしまった。
…太郎くんの、舌だ。

「やっ、だ…ちょっ、くすぐったい」
「消毒」

訳のわからないことを言って、一向に止めてくれない太郎くん。
舐められる度に、ゾクゾクと疼くような何かを感じてしまい太郎くんの肩をギュッと掴んだ。

「太郎くん、太郎くんっ…」
「もう二度と、こんな目に合わせない。幸治の綺麗な体に傷なんて付けさせないから」
「綺麗?やだ、な…太郎くんの体の方が余程綺麗だろ」
「…好き?」
「え?」
「俺の体」
「ああ、うん…」
「じゃあ、俺のことは?」

やたら真剣な顔をして聞いてくる太郎くん。
いきなりどうしたんだ…

そりゃあ幼馴染みだし、唯一の親友だし…

「好きだよ?」
「っ…俺も!大好き、幸治…!」

そしてまた太郎くんは唇にしつこくキスをしてくる。よく飽きないなあ…。
久しぶりに会うからか、太郎くんはやたら甘えん坊だ。






そんなこんなで、ダラダラしつつ太郎くんと共に過ごした夏休み。幸せな時間はそう長く続かない。
明日から学校が始まってしまう。一気に憂鬱な気分が乗し掛かる。

「はあ…」
「幸治、なに溜め息ついてんの」
「学校、行きたくないなあって」
「大丈夫、俺が付いてるから」
「は?何言って…」
「見ろよ、コレ」

太郎くんが見せてきたのは、見まごうことなく…俺の通う『東栄(とうえい)男子高等学校』の制服だった。

嘘だろ…まさか…
うちの学校に来るって本気だったのか!?

「もう前の学校は退学したし、東栄の編入試験にも合格したよ、届けも受理されたし晴れて俺は東栄の生徒って訳だ」
「はぁあああ!?」

この前しばらく出掛けてたのは、試験を受けに行ってたのか!?

「は!?太郎くんバカじゃねえの!?てゆうか言えよ!!」
「あ?言ったじゃん『俺が幸治の学校行く』って」
「あれ本気だったの!?」

なんてやつだ…県内1の進学校を退学してわざわざランクが下の学校(東栄も結構優秀な方ではあるけど、太郎くんが通っていた学校と比べると全然だ)に来るとか…正気じゃない。

「後悔、するよ?俺なんかの為に…」
「しねえよ。寧ろお前の傍に行かなきゃ後悔するっつうの」

呆れ半分、罪悪感半分。複雑な心境をもて余したまま、俺たちは新学期を迎えるため東栄高校へと向かった。


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