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50000hit企画
プリンス(平凡×変態美形ストーカー)

靴箱の中には、マイ上履きの代わりに封筒が入っていた。封筒に触れた瞬間指先に感じたのはヌルリとした液体の感触。嫌な予感。
恐る恐る臭いを嗅いでみてピンと来た。

…これは、あれだ。精液だ。

まだ乾いてないってことは、出したてなのか?

とか冷静に考察している場合じゃない。
………とりあえず手を洗おう。
いや、その前にスリッパ借りに行こう。
最悪だ。泣きたい。

そうして、今トイレの手洗い場で30分手を洗い続けています。
んー…、そろそろ大丈夫かな。

深いため息を吐いて、一時間の授業をサボってしまったことに少しの罪悪感を感じる。

実は、今回みたいな事は前にもあった。一ヶ月前は、上履き自体に精液がぶっかけられていた。次の日から靴箱には毎日手紙が入っていて、内容は「いつも君を見ています。早く俺の傍に来て」の一点張り。

それだけでは無く、最近下着やゴミ(自宅の)が無くなることも増えてたり。

これって犯罪じゃね?てかストーカー?キモくね?
てゆうか「俺」ってことは男?え?怖くね?

とか思いつつ、面倒くさくてグダグダほったらかしにしてたらさ…ついに今日上履き盗まれたあげく手を汚されて、あああもう、手紙だけならまだ良いからさあ下着盗んだり上履き盗んだりは止めろよなマジで!こんなん親にも言えないし、自分で買おうにも今金欠なんだよバカ野郎、金置いてけっつうの。

ペタペタとスリッパを履いて教室に行くと、丁度授業が終わった所だった。戸を開けたら、みんな一瞬だけ俺の方を見たけどすぐに興味無さげに目を反らされる。

俺は先生に軽く会釈し、うつ向きがちに自分の席に座って机に突っ伏した。
ああそうだ俺に話しかけてくる人なんて居ない、いつもこうやって寝たふりをして(たまにホントに寝るけど)休み時間を乗り切る。そうだよ、友達いないんだよ悪いか。

すると誰かに肩を叩かれ、恐る恐る顔を上げた…日本史の教科担任が目の前に立っている。

「辺見(へんみ)くん、具合でも悪かったの?」
「いえ、寝坊っす」
「昨日もアルバイト?少し減らした方が良いんじゃない?」
「最近金欠なんで」
「程々にね。…あれ、どうしてスリッパ?」
「ああ、上履き汚しちゃったんす。まじ困る、金無いのに」

一言二言、言葉を交わして先生は教室を出ていった。良い人だ。彼女は生徒思いで美人だから結構人気があったりする。俺も結構気に入ってたり。思わずニヤけてしまいそうになるのを耐えた。

俺に話しかけてくる人は先生達くらいだ。
こんなネクラで地味な俺にストーカーなんてするやつの気がしれない。
もしかしたらストーカーってのも違って、ただのイジメなのかも。泣きたい。




「山井くーん今日は俺とお昼食べようよ〜」
「お弁当作って来たんだよ!」

昼休み。クラスの王子様がいつものように可愛こちゃんに囲まれている。

あ、勘違いしちゃいけないぜえ。ここ男子校だかんね。超うける。

王子様(笑)は、顔良し身長高し成績良し運動神経良しという、全てが平均値もしくは平均以下な俺は一生関わることのないような人種だ。
うわ、目合っちゃった。怖…

俺はやっぱりうつ向きながら空気のように教室を出て、利用者の居ない空き教室に向かう。
シンプルな弁当をちみちみと食べていた時、急に勢い良く教室の戸が開けられ、ビクッと肩が跳ねる。
…びっくりしたあ。

現れたのは…

「や、山井?」

山井だ。王子様(笑)山井だ。なんで?
あ、俺追い出されんじゃね?今日から俺がここ使うから出てけ、とか言われんじゃね?

「ご、ごめ、山井…今出るか」
「なんで出てくの?そんなに俺と居るのが嫌?」
「…へ?」
「ねえ、何でさっき目反らしたの?てゆうか何であんな女教師と親しくしてんの?せっかくみんな遠ざけてやったのに…教師は盲点だったな」
「や、山井?」
「それから、ごめん。辺見…いや、健吾がお金に困ってたなんて。お金なら俺があげるし、好きな物も全部買ってあげるからね。だから、だからバイト辞めてよ」

ぱらぱら、ただの紙切れみたいに、何十枚もの一万円札が床に落とされた。

「山井、お前」
「やだなあ、光(ひかり)って呼んでよ。俺たちの仲でしょ?」
「俺と、お前の仲?」
「健吾がプレゼントしてくれた上履きとかパンツで昨日も沢山オナニーしちゃった。あ、そうそう。昨日は指、四本も入ったんだよ。もう健吾が入れても痛くないはず」

察した。こいつ…例のストーカー野郎か。
ゾワゾワっと、気持ちの悪さや恐怖が背中を這い上がってく。

てゆうか指を入れた、ってドコに?
…俺がなんだって?

「健吾…いつまで俺を焦らすの?そういうプレイも燃えるけど…そろそろ辛いな」

近付いてくる山井。じりじりと後ずさる俺。

こいつ、普通に頭おかしいって。相当キてる。

「く、来るな」
「早く、俺の中健吾でいっぱいにしてよ、気持ち的にはもういっぱいだよ?でも、大好きだから身体も全部欲しいんだ。健吾の童貞チョウダイ。ねえ健吾…愛してる、愛し」
「やめろよ!気持ちワリイな!!」

思い切り、突き飛ばすつもりで山井の胸を押したのだけれど。少し後ろに下がっただけで効かなかった。くそ、体格差が憎すぎる。

「…気持ち、わるい?俺が?」

呆然としたように、山井がおうむ返しをした。

「ああ、キモいんだよこの変態ストーカー野郎!!次変な気起こしたら通報すっからな!!」

中指を立てて怒鳴り散らした後、固まったまんまの山井の脇をすり抜けて俺は教室を出た。
バタバタと慌ただしく廊下を駆けてトイレの個室に入った瞬間…腰が、抜けた。

やべえよおぉおー!!学校中の人気者を敵に回しちゃったああ!!
明日からどうなるんだよ俺、確実にリンチフラグだよ…
学校来たくねええぇ!!!






そのころ山井は、辺見の去った空き教室で呟いていた。

「…凄い。俺、キモイとか初めて言われた。やっぱり他の人とは違う。俺の王子様、絶対離さない」





END.


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