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50000hit企画
体育の授業事件(ペットボトル事件続編)

今日は朝から憂鬱で仕方なかった。何かって、体育の授業があるからだ。それもバドミントン。

…わかるだろ?ぼっちのおれには最悪の授業だ。

先生の「二人一組でペアになれ」は地獄のセリフ。
しかも今日は隣のクラスとの合同らしい。終わった。
隣のクラスのやつらにまで「ぷっ…あいつぼっちじゃんカワイソウ」なんて言われてしまうのか…

でもサボることは出来ない…一応皆勤賞狙ってるからね。受験の為に。

ああ、憂鬱な授業が始まってしまった。

全員での準備体操が終わり、ついに先生が例のセリフを言い放つ。

「よし。じゃあ二人一組でペアになれー」

あううう、どうしよう。うわ、俺のクラス奇数だし。俺が余るの確実じゃん。どうしよう、あー…もう。

みんなが次々と仲良し同士でペアを作って行く様子を眺めていたら、何やら三城がニヤニヤして近寄ってきた。ゲ。
嫌な予感しかしねえ。

「ネクラくんやっぱりぼっちじゃん。うける」
「………」
「マジで嫌だけどさあ、仕方ねえから俺と、」
「なあ」

ちょっとだけ頬を赤らめながら喋っていた三城のセリフに誰かの声が被さった。
後ろを振り向いて、ぎょっとする。
涼しげな目元に通った鼻梁、綺麗な肌に形良い唇。三城に匹敵するくらいのトンデモイケメンが居たからだ。
無造作にセットされたウルフカットの髪は真っ赤。耳には無数のピアス。そして目付き悪い。

こ、こいつは…
隣のクラスの一匹狼だという不良くんだ。確か…夏井?だっけ。

なんで来たの。なんで俺には危ないヤツばっか寄ってくんの。
神様って意地悪だ。俺に試練ばかりを与える。

「お前、余ってんなら俺とペア組まねえ?」
「「は!?」」

夏井のまさかの発言のせいで、俺と三城の声がハモってしまった。キモい。

でも、正直…夏井の申し出はかなり嬉しかった。

「嫌?」
「全然嫌じゃない!よろしく、えっと…夏井?」
「お前、俺の名前知ってんだ?」

そっかそっかー。夏井も一匹狼とか言われてるくらいだから友達居ないんだな。まあ、こいつは友達居ないっていうか敢えて友達作ってないだけだと思うけど。
でも嬉しい。俺に話し掛けてくれた。実は良いヤツなのかも。

ほんわかしながらバドミントンのラケットを取りに行こうとした時。三城に腕を掴まれた。

「ちょ、ちょっと待ってよ…C組の夏井、だっけ?アンタこんなのとペアになる訳?止めときなよ。こいつネクラだし、友達居ないしクラスの嫌われものだよ?」

三城は焦ったような声で、俺を指差しながら夏井になんか色々言ってる。
やめろよ本当。せっかく誘ってくれたのに。断られたらどうしよう。
なんてこと言うんだよコノヤロウ。


夏井は無表情のまま、口を開いた。
…引かれた、かな。
でも、夏井のことだから「そんなこと気にしねえよ」とか言ってくれるかも…

しかし、夏井の言葉は誰もが予想していない物だった。

「…何言ってんの、お前。ユズは俺の親友…いや恋人なんだよ。部外者が口出すんじゃねえよ」

しーん…………
俺たちの半径2m圏内が静まり返った。

俺の背中には冷や汗が滲む。
え…何?夏井もそっち系?危ない系?

…三城と同じ人種?

「ハア?アンタ頭おかしーんじゃねえの。てゆうかユズって何?馴れ馴れしい」

三城がバカにしたように笑った。クソ、今なら三城のセリフに共感できる悔しい。

「ユズはお前に渡さない。…ユズ、行こ?」
「えっ…あ、うん…」

きっとこれはジョークだジョーク。
夏井って意外と面白いヤツなのかもしれない。あはは、うけるー。あはははは…あはは…はは…

ビックリして固まっている三城を置いて、俺と夏井はラケットとシャトルを手にして体育館の隅っこに移動した。

「夏井ー、サンキューな。俺を庇うためにあんなこと言ったんだろ?でも、キャラ的に大丈夫なのか?」
「ユズ…俺のこと、覚えてないのか?」
「へ?」

眉を下げて急に情けない顔になる夏井。
え、何?どゆこと?
がしっと肩を掴まれて思わず引き気味になってしまう。

「ちょ…夏、井…?」
「夏井、なんてよそよそしく呼ばないでよ。前みたいに、ひろちゃん、って呼んで…ユズ」
「ひろ、ちゃん…?」

お前口調変わってんぞ大丈夫か。

んー…でも。なんかなあ。

「ひろちゃん」、その名前がどこか引っ掛かって俺は首を傾げた。

そして、頭の片隅にある遠い記憶が少しずつ蘇る。

隣の部屋、公園、女の子みたいな美少年、ひろちゃん、ひろむ。

「お前…隣の部屋に住んでた大夢(ひろむ)?」
「ユズ…!思い出してくれたの?!」

おお…揺れる尻尾が見えるようだ。

…そうだ。俺は今の家に住む前、マンションというか団地みたいな所に住んでいた。その隣の部屋には、俺と同い年の美少年が住んでいた。よく公園へ行って一緒に遊んでいたことを思い出して懐かしくなる。

「へえ〜。懐かしい。大夢、お前すげえ男前になったな」
「ユズは変わんないね。可愛い」
「(スルーしとこう)お前、なんでこんな不良ぽくなっちゃったの。昔は大人しい子だったのに」
「…小2の時、ユズは俺に何も言わず転校しちゃったよね」
「そうだっけ?」
「ショックだった。俺と結婚しようねって約束してくれたのに。婚約指輪だって、作ってくれたじゃん…!小さすぎてもう指に嵌まらないけど…俺、あれちゃんと毎日財布に入れてるよ!」

そんなことあったっけ?全く記憶にない。
いや…言われてみればあったかも。針金で作ったショボい指輪。
多分俺、その当時大夢のこと女の子かと思ってたはずだ。
後で親から知らされて、ショックを受けた記憶がある。

「ユズ…ユズが居なくなってから、俺は何もかも嫌になって。中学に上がってからは喧嘩ばっかして、学校も休み勝ちになって…」
「泣くなよ、何かよくわからんが悪かった」
「やっと見付けて、同じ学校入ったのに俺に全く気付きもしないんだもん…俺、執念深いから…ユズが自分から気付いてくれるまで俺からは近付かないって決めた、けど…」
「(突っ込み所が多すぎるどうしよう怖い)お前…二年前から気付いてたんならもっと早く話し掛けろよ」
「だって!恋人が、俺という恋人が近くに居るのに気付かないユズが悪いんだよ!俺はずっと陰からユズを見詰めていたのに。…でも、もう耐えられない」

お?…大夢の声のトーンが変わった。

「何なんだ?あの三城とかってふざけたやつ。俺の可愛い恋人にちょっかいばっか掛けて。もう耐えられなかった。自分からは近付かないって決めたのに、我慢出来なくて…今日、ユズに話し掛けちゃった」
「…俺、お前の恋人だったんだ?」
「もちろん。てゆうか婚約者てきな?」
「そ、そっかあー。知らなかったわー」
「もう、ユズってばおバカさん。でもそういう所も好き〜。早く俺の旦那様になってね」
「お前が嫁かよ!」
「ベッドでは俺が旦那だけどね」

あー…今日の夜ご飯なにかなあ。
しょうが焼きだっけ?

ドラクエも進めなきゃ。あのボス強いんだよな、やっぱレベルを先に上げといて…

「ユーズ?どしたの?ぽやーっとしてる。ふふ…可愛い」

ふにふにと頬を摘ままれて、ハッと我に帰った。危ない危ない。現実逃避モード発動してたし。

「大夢、あのさ」
「大丈夫。ユズ、これからは俺が三城から守ってあげる」

俺の顔をうっとりと覗き込みながら言った夏井を見て、俺はふと思った。

いやいや、お前も同類だからね。
三城から守られてもお前も危ないから。

「…ねえ、さっきから聞いてればなんなの」

背後から思い切り襟首を掴まれて引っ張られる。ぐえっとなった。
ボスンと背中がぶつかったのは、案の定…三城。

「…ユズを離せ」
「夏井クン?幼なじみだか何だか知らねーけど、いきなり出てきて何なの?今まで陰で見てたんなら今まで通り出てくんじゃねーよ」

おお…大夢VS三城…。怖…。
頼むから俺の居ない所でやってくれ。

…泣きたい。

「お前、ユズのこと散々イジメてたじゃねえか」
「それを知ってて今まで止めなかったアンタも同類だろーが。口出すんじゃねえよ」
「これからは目一杯俺が甘やかす。お前にイジメられて傷付いているユズの身も心も優しく慰めて俺にだけ心を開く子にしてやんだよ文句あるか」
「文句あるわああああああ!!!!!」
思わず俺は叫んでしまった。

三城だけで手一杯なのに、新たな変人が現れて。なんかもう、俺の心が休まる時間は無いらしい。つらい。

誰か助けてください。


END


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