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50000hit企画
どうやら愛されてるみたい(執着美形×平凡)

「公人(きみと)ー」

あいつが俺の名前を呼ぶ度、教室がざわつくのは毎度のことで…もう慣れた。

冷たい視線にも、もう慣れたし。

「…真広(まひろ)」
「お昼食べよー」

幼なじみの真広は、小さな頃から恐ろしいくらいに容姿が整った人間だった。
小学校低学年のときなんて、小柄だし、色白でまつ毛が長くて…女の子と見間違うくらいの儚げ美少年でそれは天使みたいだった。

それがどこでどうなったのか、にょきにょきと図体がでかくなり、顔付きも精悍さが増して今ではすっかり男前だ。

さらさらした茶色の髪と色素の薄い瞳の色は小さな頃から変わらないが。
あと、相変わらずヘラヘラした態度と間延びした喋り方も昔から変わらない。

…俺はこいつのことが嫌いじゃない。
寧ろ、何考えてんのか分かんないけど結構良いやつだし…唯一の友達だし。

ぶっちゃけると俺、クラスに友達居ないんだよね。
てゆうか昔から俺、暗くて地味だったからいつもクラスで浮いてた気がする。

でも、真広がいつでも傍に居てくれたから俺は平気だった。
真広はかっこよくて明るくて、みんなの人気者だけど、こんな俺と一番一緒に居てくれる。
真広が幼なじみで本当に良かった。

でも。高3になって初めて真広とクラスが離れて。
それでも真広は毎日俺の教室に来てくれた。

最初、真広が「公人も俺の教室遊びに来なよ」だなんて言ったけどとんでもない。
他のクラスとか怖い。
一度だけ真広の教室に行ったとき、戸を開けた瞬間…真広のクラスメートたちが俺を睨んだ気がする。
くすくす嘲笑してるのも聞こえた。
それがトラウマになった。

けど、こんな駄目人間のくせに…俺は人一倍プライドが高いから、真広にそんなカッコ悪い理由離せなくて。
とにかく行きたくないと言い切ったら真広はいつものようにヘラヘラした笑顔で「あ、そう」と言っただけで追及はしてこなかった。

…多分、色々察しが付いたんだろう。

ちょっと話がずれたな…
そんなこんなで、クラスが離れても真広とは相変わらず一緒に居たんだ。

ただ…途中から二人きりでは無くなった。

ある日の昼休み、いつものように俺を呼びに来た真広の隣に知らないヤツが居た。
真広には及ばないがかなりのイケメンで、金髪のちゃらけた不良っぽいヤツを。
かなり苦手なタイプだ。
絶対に関わりたくない部類の。
なのに、あろうことか真広は言った。

「今日からこいつも一緒で良いー?」

嫌だ!なんでこんなやつと!
…とは勿論言えず。

嫌だ、って言って、もし「じゃあ公人は一人で食べれば?」なんて言われたりしたら…と想像するとゾッとしたから。

それに…この金髪不良、すげえ怖いんだよ。
すっごい睨んでくる。
断ったら何されるかわかんない。

チキンな俺に選択の余地など無かった…

実際こいつはすげえ嫌なヤツだった。
よく睨んでくるし、舌打ちも沢山してくるし、真広が離れた隙を付いて暴言を吐いてくる。

今だって、そうだ。空き教室で三人でご飯を食べて、真広がトイレに行った途端…金髪不良…矢田は鋭い視線で俺を射抜いてきた。

「おい、てめえ」
「………」
「黙ってんじゃねえよ!返事くれーしろ!」
「ひゃい!」

ガンっと机を蹴られて、俺は涙目になりながら返事をした。怖ええ…まじ怖ええ。

「毎回言うけどよ、お前なんで居んの」
「な、なんでって…」
「なんでお前みてえな奴が真広に構われてんのかわかんねえ」

なんでいきなり出てきたお前にそんなこと言われなきゃなんないんだ!?
俺と真広は幼なじみで、お前なんかよりずっと昔から仲良かったんだ!

…なんてことも当然言えず。

「…ご、ごめん」
「謝るくれえなら消えろやクズ」
「そこまで、言わなくても…」
「あ?」
「…っ…何でも、無い」
「…真広はお前になんて似合わねえこと気付けよ。あいつ実際迷惑してるみてえだし。幼なじみだからって、いつまでもくっ付いてくるお前によ」

…そんなの、嘘だ。

嘘だ、嘘に決まってる。

でも、俺もたまに思ってた。
俺はずっと真広にベッタリだから、たまにウザがられてるかもって。
でも幼なじみだしって事で、真広は嫌々俺に付き合ってんのかもって。

実際、他人から告げられると胸が痛くなった。

怖い。
怖い怖い怖い。

俺は、矢田に言われた言葉をずーっと頭の中でリピートしていた。



放課後、いつものように真広の部屋に来て新作のゲームをやっている途中にも…俺の頭の中は昼間の矢田の言葉でいっぱい。

「公人?」
「…ん?」
「何かあった?何か変だよ。ゲームつまんない?」

コントローラーを置いて心配そうに顔を覗き込んできた真広はやっぱ優しい。
俺は軽く泣きそうになりながら、素っ気なく「べつに…」と返した。
嘘だ。今俺はかなり落ち込んでいる。
前からやりたくてたまらなかった、せっかくの新作ゲームにも集中できないくらい。(因みに、俺と真広はかなり趣味が合うらしくて。俺が欲しいなーって思ってた物、必ずと言って良いほど真広が持ってたりする)

「公人…何か悩みがあるんなら俺に真っ先に言ってね」
「…ああ」




翌日、授業中に窓の外を何気なく見たら真広のクラスが体育をやっていた。
今日は陸上かあ。暑い中大変だなー…
やっぱ、真広は脚が断トツ速い。かっこいいなあ。
真広がトップでゴールした先には、矢田が居て。二人でハイタッチして、矢田が真広の肩を抱いて、頭を小突いたりしてじゃれあってる。

二人が楽しそうに笑っているのを見て…じわり、と胸が嫉妬心で焦がれた。

二人がお似合いだから尚更だ。

再び、あの言葉が頭に過る。

『…真広はお前になんて似合わねえこと気付けよ。あいつ実際迷惑してるみてえだし』

…本当に、そうなのかもしれない。

だって、世界が違いすぎる。

真広には、矢田みたいな友達の方が…

なんか、気分悪くなってきた…

先生に言うと、確かに顔色が悪いなって言われ、すんなりと保健室に行くことを許された。



「公人?大丈夫?」

保険医の居ない保健室のベッドでしばらくぐったりとしていたら、体育を終えたらしい真広が来てくれた。
嬉しくて、一瞬心が浮き足だったが…
真広の後ろに矢田が立っている事に気付いてテンションが急降下。気分は最悪。

俺は真広の問いかけには答えず、寝返りを打って真広に背を向けた。

「公人?ねえ…どうし、」
「触んな!」

俺は思わず、肩に触れてきた真広の手を払いのけてしまった。

…やってしまった。子供じみた独占欲を勝手に抱いて、勝手にイラついて。
何も悪いことをしていない真広に当たってしまった。

すぐに謝ろうと口を開きかけた時…

今まで聞いたことも無いくらいに冷たい真広の声が聞こえた。

「矢田、出てけ」
「あ?…いや…、でもよ…」
「いいから出てけ。公人と二人で話がしたい」

何度も振り返りながら、渋々といった感じで矢田が保健室を出た瞬間。
布団越しに真広に抱き締められて、思わずグエっとなった。

「公人」
「ま、真広、苦しいっ…」
「公人、どうしてあんなこと言ったの?」
「真広…?」
「悪い子だね、公人。反抗期?可愛いけど。『触んな』なんて…傷付いた」
「ごめん、でも…真広…真広は、俺なんかと居て楽しい?」
「…は?」

もう、この際プライドもへったくれも無い。

「俺、地味だし…顔も良くないし、頭も悪いし、人付き合い苦手だし…面白い話も出来ない。あ、あとノロマだし、行動遅くて周りイライラさせるし…それに」
「誰に言われた」
「へ?」

地を這うような恐ろしい声が、真広の形良い唇から放たれた。

「誰が俺の公人にそんなこと言った」
「…誰かに、言われたんじゃない。自分で現実を…」
「全部違う!公人は世界一可愛い、真ん丸な目とか、こじんまりした鼻も…ちょっと下がった眉毛とか、守ってやりたくなる。そばかすも可愛い。皮が被ってるおちんちんも可愛い。公人は頭が悪い訳じゃないよ、教える先生が悪いんだ、だって公人…俺が教えてあげたら飲み込み早いでしょ。人付き合い苦手?得意だったら困るよ。公人には俺だけ居れば良いの。それに、俺は公人とする話は全部面白い。たどたどしく一生懸命言葉にして伝えようとしてくれてる時とか、可愛すぎてやばい。それに、俺は公人のマイペースな所も好きだよ。大丈夫、俺がずっと傍に居てあげるから」


…マシンガン過ぎて、よく聞き取れなかった…
………待て!なんで真広が俺のチンコ事情知ってんだ!いつ見た!?

他にも色々失礼なこと言われた気が…

「てゆうか、この際言わせて貰うけど」
「なあに?公人」

俺はヤケになった。もう どうにでもなれ!

「俺は、矢田が嫌いだ!」
「嫌い?どうして?」

真広お前、なんで嬉しそうなんだ。

「…不良だし、なんか怖いし、でも何より」
「何、より?」
「真広が、盗られそうで嫌だ」
「それって…嫉妬?」
「…うん。かっこわるいけ」
「可愛い可愛い可愛いっ。俺が矢田と仲良くしてるの見てやきもちー?」
「…ん」
「じゃあ、もうアイツ要らないわ〜。目的は達成したしー」
「…ん?」
「そろそろウザくなってきたんだよねー。なんか最近すげえ馴れ馴れしくなってきたしさあ。元々、金の為に傍に置いてたんだし」

話が読めない…

「お金…って?」
「ん?ああ…あいつん家金持ちだからさ…あいつに告白された時、閃いたんだよ。ちょっと優しくしてやって、キスでもしたら何でも買ってくれたよ。公人が欲しがってたゲームも、新作のお菓子も、時計も、DVDも何もかも。お陰で嬉しそうな可愛い公人が沢山見れた」

…そんな、じゃあ、あのゲームやお菓子は俺の為に…矢田を利用して手に入れたって?

確かに時計の時は少しおかしいと思った。
真広と買い物中に、ショーウインドーに飾ってあった高級なカッコイイ時計。
俺は何気なく、「カッコイイ。こういう時計欲しいなー」って言った。
次の日、なんと真広がその時計を持っていたから驚いた。
『懸賞で当たったんだけど、俺に似合わないから公人にあげる』
そう言って渡された時は流石に狼狽えたし遠慮しまくった。

「真広…お前なにやって…」
「まさかヤキモチやいてくれるだなんて…一石二鳥ってやつ?まあちょっとは期待してたけど。公人、今日体育見てたっしょ?だからわざと矢田とじゃれ合って見せつけてみたー。…公人、こっち向いて?」

真広、なんか…なんか変だぞお前。おかしい。
言いたいのに、声が出ない。

馬乗りになられて、俺の両頬に真広の手が触れる。

「可愛い、可愛い公人。大丈夫、公人の欲しいものは、これからも何でも用意してあげるからね。他のやつにおねだりしちゃダメだよ。俺を頼ってね。」
「ま、まひろ…」
「クラスのやつらとも喋っちゃダメだよ。せっかく遠ざけてやったんだから。ごめんね、もう浮気したりしないから。公人大好きだよ、ずっと一緒に居ようね」


…これで、良かったのかな。
なんか俺、わからなくなってきた。

なんかまた具合悪くなってきたし。



END


実は最近 矢田も公人のことが気になり始めている…という裏設定もあったり。



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