50000hit企画 王子様を独り占めしたい(ホスト×平凡) 春に告白したのは、俺の方からだった。 俺の兄は、本当に俺と兄弟かってくらいイケメンで。ホストクラブで働いていて、実はNO2を張っていたりする。 そんな兄がある日、友人を連れてきた。それが彼、春(しゅん)。 ホストクラブ「Rosy」のNO1。 源氏名はハル。 兄と春は、ライバルっていってもかなり仲が良いらしい。春はよく家に遊びに来た。 春は見た目が良いのは勿論のこと、普段から明るくて気さくで、ガキの俺にもよく話し掛けてくれた。 初めて会ったとき、俺は15歳。春は21歳。 今ではもう、俺と彼は18歳と24歳。 初めは、兄を慕うような感情しか持ち合わせていなかった。 しかし、徐々にそれが恋心へと変化していった。 告白したのは、俺が17歳の頃。 春がいつものように家に遊びに来たとき。兄がコンビニに出掛けて、二人きりになった隙に告白をした。 すると春は、綺麗に微笑んで言った。 「お前から言ったんだからな。嫌だっつっても離さないから」 「ん…、春…もう、出る時間?」 「うん、良太、大人しく寝てなよ」 「…いって、らっしゃい」 「いってきます」 先ほどまで、セットをしていないサラサラの髪型、ほのかに香る石鹸の匂い、そんな飾らない姿で一緒にベッドに入っていた春。 今はセットを決めた髪型と、香水の香りを身に纏って夜の仕事に行ってしまう。 本当は、寂しい。 他人に笑顔を振り撒いて甘い言葉を囁く彼なんて嫌だ。 けれど、文句を言う資格なんて俺には無い。 仕事は仕事だし、そもそも俺は全て分かった上で彼に告白したのだ。 だから、笑顔で送り出さなければ。 額に優しく落とされる口付けを受け止めて、俺は自分に言い聞かせた。 「ん…」 朝方、目が覚めた。ちらりと時計に目をやると、まだ5時半だ。二度寝しようかな。 すでに春は帰って来ていて、隣で静かに寝息を立てている。 いつもシャワーを浴びてすぐ寝るので、香水の匂いはすっかり消えている。 でもちょっとだけ酒くさい。 Tシャツの隙間から見える鎖骨や胸元にはいくつもキスマークが見えて。 もう見慣れたけれど、やはり胸が痛んだ。 つらいなあ… 「良太、明日は休み取ったから。1日中一緒に居よ?」 ある日、春が笑顔で俺に伝えてきた。ビックリしてしまう。 「え…?でも…休んで、良いの?」 「勿論。恋人の誕生日くらい祝わせてよ」 そう。明日は俺の誕生日だ。 NO1ともなると、1日休んだだけで店の損失はかなりのものになるだろう。 きっと、オーナーに頭を下げて、罰金を払ってようやく取れた休みなのだろう。 どんなに具合が悪くても、熱があっても絶対に仕事を休まない春が…俺の為に休日を作ってくれたことが、嬉しくて… 俺は柄にもなく泣きそうになった。 「良太、誕生日おめでと」 「今日だけで何回言うの?」 「だってめでたいじゃんか」 誕生日ケーキや俺の好物が並んだテーブル。プレゼントのペアリング。 テーブルを挟んだ向かいで、仕事の時の気取った姿の「ハル」では無く、「春」が居て。まるで自分のことのように俺の誕生日を喜んでくれる。 幸せで、幸せで、仕方なかったのに。 寝室から、ケータイの着信音が微かに聴こえて俺はギクリと身を強張らせた。 お願い、春が、気付きませんように。 「…で、そん時に俺はお前の兄ちゃんと居たんだけどー、ほんとビビったわ」 「う…うん」 「その後さ……。…電話鳴ってる?ちょっとごめんね」 …ああ、春が着信に気付いちゃった。 知ってる。春のポケットに入っているケータイは「プライベート用」 寝室に置いてあるあれは、所謂「営業用」のケータイ。 …ねえ、電話なんか出ないでよ。 今日は休みなんだよね。 春… 寝室から話声が聴こえる。 通話相手の声は流石に聞こえないが、客であることは100%だ。 『そう?可愛いこと言うじゃんー』 『えー、じゃあドンペリ入れてよ。ロゼでいーよ』 『ありがと、大好きだよ、沙弥ちゃん』 聞きたくない、と意識したら余計に耳に入ってしまう。 なんで、俺の誕生日なのに。 他人に「大好きだよ」なんて言ってるの聞かされなきゃなんないの? 「ごめん、良太。ちょっとお客さんから電話が来て」 「ん、大丈夫。てゆうか羨ましい、モテモテだね」 「…ごめんね」 嫌味を言われたと思われたのか、苦笑いを浮かべた春が俺の隣に座って、腰に腕を回してきた。 …客の機嫌を取るときにも、こうやってするのかな。 なんて、嫌な想像をしてしまう。 俺はそれを表に出さないよう、笑顔を取り繕った。 「いいなあ、春…そうだ!俺もホストやってみようかな。ほら、俺って顔はフツーだけど、喋りは案外…」 「…なにバカなこと言ってんの」 冗談で言ったのに、春は怖い顔をして睨んできた。 なんで? 春は、好き勝手やってるくせに。 「俺は、ダメなの?」 「当たり前でしょ、俺が許さない」 もう、我慢出来ない。 「…っざけんな!!なんでお前は良いのに俺はダメなんだよ!」 「駄目なものは駄目」 「もう嫌だ!お前が女と仲良くしてんのなんか見たくない、他人に大好きなんて言う所見たくない!キスマークなんてもっての他だ!見付ける度にお前を殺したくなる、寝ているとき何回も首締めようと思ったか…このヤリチン!もうウンザリだ!俺にホストの恋人なんて耐えられな、」 「俺、ホスト辞める」 「それから、女の香水移して帰ってくるのも…って、え?」 「だから、ホストの仕事辞める」 耳を疑った。 だって、「じゃあ別れるわ」とか言われるかもって覚悟してたのに。 ホストを辞めるって? そんな軽々しく決めて良いの? 「…本気?」 「本気。やっと良太の本音が聞けたわけだし。それに、そろそろちゃんとしたお仕事就かなきゃって思ってたんだ」 「春…」 「ホスト辞めて、まっとうな仕事に就くから…良太、ずっと俺の傍に居て」 そう言って春は、誕生日プレゼントのリングを俺の右手の薬指に嵌めた。 「右手?」 「こっちは、俺が良太に相応しい男になるまで取っといて」 左手の薬指の付け根に唇を押し付けて微笑んだ春は、今まで見た中で一番綺麗だった。 END おまけ 「俺、お前に告白されるずっと前から、良太のこと好きだったんだよ。多分良太が俺のこと好きになる前から」 「…そ、だったのか?でもそんな素振り…」 「良太の兄貴に、良太に手出したら殺すって本気で脅されてたからね〜」 「兄貴…」 「でも、お前から告白されたって伝えたら許してくれた。あいつ泣いてたけど」 …後で、久しぶりに兄に会いに行ってあげよう。 [*前へ][次へ#] [戻る] |