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50000hit企画
ただのわがまま(受け溺愛ワンコ×平凡)

「鈴斗(すずと)、イトコの杏里くんも桜庭高校に入るらしいわよ」

母さんに言われた言葉に、俺は手元のDSに注いでいた視線を上げた。杏里は俺と同い年のイトコで、結構遠くに住んでいるんだけど小学生の頃はよく家に遊びに来ていた。しかしお互い中学生になってからは何故かぱったりと来なくなり、俺からも行くことがないのですっかり疎遠になっていた。

懐かしいなあ。杏里はまるで女の子みたいに可愛い顔をしていて、泣き虫な構ってちゃんで…俺が他のイトコや友達と遊んでいたら泣きながら子犬みたく引っ付いて来て駄々を捏ねていた。
きっと大人になっているんだろうな。昔から美少年だったし、すげえイケメンになってそうだ。

「それでね…鈴斗聞いてる?」
「あ…ごめん。ちょっと昔のこと思い出してた。何?」
「だから、杏里くん遠くに住んでいるから当然こっちに引っ越してくる訳でしょ?でも桜庭高校って寮がないし…下宿や一人暮らしも、姉さん心配みたいで」
「へえ」
「だからね、家に来なさいって提案したの」
「へえ。…え!?」
「ほら、この前お兄ちゃんが居なくなったから部屋は1つ空いてるし。杏里くん頭良いらしいから、あんた勉強教えてもらいなさいよ」
「まじで!?いつから来んの」
「来週からよ」



ということで。疎遠になっていたイトコが突如俺の家に居候することになった。


「お久しぶりです。今日から大変お世話になります」

約3年ぶりに見た杏里は、案の定かなりのイケメンになっていた。自然にセットされた茶色く染まった髪に、耳にいくつも開けられたピアスのせいで少しチャラいというか不良然として見える。

「鈴斗、会いたかった!」
「うわ!!」

荷物を床に置くなり、勢いよく抱き付いてきた杏里に狼狽してしまう。なんだ、このノリは…

「どう?俺かっこよくなった?男らしくなった?」
「え…あ…うん」
「鈴斗にあんなこと言われたから、会いたいの我慢して必死で頑張ったんだよ!毎日筋トレして、身長伸ばすためにカルシウム沢山取って…」
「あんなこと…?」

俺、何か言ったっけ…?

「言ったじゃん。小学6年生の夏休み、8月24日。鈴斗のお兄さんが持ってるファッション雑誌を二人で見てた時。鈴斗ってば、チャラチャラしたお兄さんを指差して『この人男前だな』って。それで俺はムカついて、『僕よりも?』って聞いた。そしたら鈴斗、『お前はかっこいいというか可愛いって感じだろ。女みたいだし』って」


そういえば…そんなことも、あったっけ?あんまり覚えてない。しかしすげえな、日にちまで覚えてるなんて。お前の記憶力には脱帽するわ。

「そうなんだ。で?」
「それからは修行の日々だよ。鈴斗にかっこいいと言わせる為だけに」

何だかよく分からないが、きっと女みたいだと言われて悔しかったんだなコイツ。

「かっこいいよ。すげえ男前になったな」
「鈴斗…!」

再びガバリと抱き付いてきた杏里の背中をぽんぽん叩いてやった。それにしてもこいつ、スキンシップ激しすぎだろ…。




杏里が家に来てから、早くも1週間が経った。杏里はと言えば、外見こそ男らしくなったが中身は小学生の頃から変わって居ない…寧ろ甘えん坊度と構ってちゃん度が増しているようだ。

毎日俺の後ろを引っ付いて来て、風呂まで一緒に入りたいと駄々を捏ね、寝るときも自分の部屋には行かず俺のベッドに入ってくる。俺が何かを頼むとキラキラと目を輝かせて忠犬のように喜んでパシリをし、ご褒美にハグや撫で撫でを要求してくる。でもこの間、洗濯を頼んだら何故かパンツを何枚か紛失されたので、洗濯はもう頼まないことにした。

まあ、たまに鬱陶しく感じるが、家の中では我慢出来た。しかしそれが学校でとなると話は別だ。

高校に入った杏里は、見た目のかっこよさに加え学年主席というステータスもあり当然のようにモテモテになった。(※桜庭高校は男子校)

そんなやつに毎日ベタベタにくっ付かれ、しかも杏里はかなりの人見知りで俺以外の人間とは一切口を聞かなかった。
俺が中学からの友達を紹介した時も思いっきりそいつらを睨み付けたくらいだ。めちゃくちゃシャイボーイなのだ。

そんなモテモテの杏里が唯一構う相手が俺みたいな何処にでも居そうな通行人Aばりの男子だとすれば、当然杏里のファンたちは不愉快に思うだろう。至極自然な流れだ。

そんな彼らからの嫌がらせの数々…(上手いことに、杏里や他人には気付かれないようなチマチマした陰湿なもの)たちに耐えられなくなった俺は、杏里に学校での接近禁止令を出した。

今ここね。

「なんで!?俺のこと、嫌いになった!?」
「ちげえよ。ただ、色々事情があって…」
「ヤダヤダ!せっかく、せっかくやっと一緒に過ごせるようになったのに!鈴斗の傍に居られないなら、桜庭に入った意味がないよ!」
「家では普段通りでいいから…な?」
「ヤーダー!!俺のこと捨てないで!そんなこと言うなら、俺もう学校なんか行かないもん!」

普段から我が儘な奴だとは思っていたが、段々と腹が立ってきた。大体、誰のせいで困っていると思うんだ。
ついに、俺は大声を張り上げてしまった。


「…この我が儘野郎!勝手にしろ。俺はもう知らねえよ!」

「す、鈴斗…?」

そう言って、呆然としている杏里を置いて俺は家を飛び出した。そしてその日は携帯の電源を切り、中学からの友達の家に泊めて貰った。

次の日になり、俺は若干の罪悪感に苛まれ始めた。杏里は事情も何も知らず、突然俺に近寄るなと言われたんだよな…考えてみたらちょっと酷いことしたかもしれない…と後悔してきたのだ。

今日は家に帰ろう。そして謝ろう。
そう考えながら友人と学校に向かうと、校門の辺りで突然何者かに腕を強く引っ張られた。

「わっ…!?って、杏里!?」
「鈴斗、ごめんなさい!!」

杏里にぎゅうぎゅうと苦しいくらいに抱き締められ、突然のことにどうして良いのかわからなくなった。

「杏里、昨日は…」
「鈴斗の友達に聞かされたんだ、俺のせいで鈴斗が嫌がらせされてたなんて…全く気付かなくて…!我が儘言って、ごめんなさい!ごめんなさい…嫌いにならないで!」

ボロボロと泣きながら繰り返される謝罪の言葉に、何だかこっちまでジーンと来てしまう…
優しく頭を撫でてやりながら、俺も謝るため口を開いた。

「俺こそ、悪かった。理由も説明せず、お前のこと拒否って…嫌いになんてならねえから、泣くなよ」
「鈴斗…大好き。もう大丈夫だからね。俺が守ってあげるから。だから、もう俺から離れたりしないで…」

そうして、杏里が落ち着くまで頭を撫でていたがHRが始まる予鈴が聞こえたので俺たちは教室に向かった。

教室に足を踏み入れた瞬間、ふと違和感に気付く。いつも真っ先に杏里に挨拶をしてくる可愛い顔をしている男の子達のグループ…そいつらが、見当たらない。

「席つけー」

集団サボりか?と首を傾げていたとき、何だか疲れた様子の担任が教室に入ってきたので取り敢えず席に着いた。

そして中年の担任は真剣な面持ちをし、驚くべきことを口にした。

「えー…突然だが、矢島と阿部、佐口、渡仲の4人が急に自主退学を申し出てきた。先生、説得したんだが…辞めるの一点張りでな…」

ざわりと、教室内が騒がしくなる。
俺は頭の中が真っ白になった。

その4人は、今教室に居ない例の可愛い男の子のグループのやつら。熱狂的な杏里ファンらしく、毎日熱心に話し掛けては見事にスルーされていた。
…そして彼らは、俺に嫌がらせをしてきた張本人たちでもある。

一体、突然何が起こったんだ?
困惑しながら隣の席の杏里を見る。

杏里は、それはそれは綺麗な微笑みを浮かべて。長いまつげに縁取られたその瞳は期待に満ちていた。

そして、ねだるように俺に言う。

「鈴斗、褒めて」


End.


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あきゅろす。
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