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ペットボトル事件


相合い傘事件




昼間まで快晴だったのに、どうして…

「大雨だ…」

どしゃ降りの外を見て、下駄箱の前で大きなため息をついた。今日に限って折り畳みの傘を鞄に入れていなかった。家までは徒歩10分。バスに乗る程の距離じゃないし…

走って帰ろうかな。

外靴に履き替えて立ちすくみ悩んでいたら、ドン、と誰かか腕にぶつかってきた。

「邪魔」
「ごめん…って…」

三城かよ!!!なんか謝って損した気分。

「何してんのお前」
「…帰るところ、見たらわかるだろ」
「うわ、めっちゃ雨降ってんじゃん!ネクラくん傘持ってる?」

何こいつ…すげえ話しかけてくるんだけど…

なんかこの間の資料室の1件以来、なんというか…前よりも馴れ馴れしく話しかけてくるようになった三城…
文句とか、からかいとかだけじゃなくてこんなふうに日常会話的な感じで話しかけてくることが多くなった。

「…傘ない。忘れた」
「まじかよ。どーしよっかな」

前の三城だったら…「はあ?ふざけんなよ使えねーな」くらい言ってきたのに。
なんか…三城が普通だ。気持ち悪い。

こんな奴に関わらずさっさと走って帰ろうと思い玄関を出ようとしたとき、がしりと腕を掴まれて心臓が口から飛び出しそうになった。

「ネクラくん、ちょっと待ってて」
「は?」

三城は俺に言い残すと、少し離れた場所に居た女子生徒に近付いていった。何なんだ…。怪しすぎて思わず聞き耳を立ててしまう。

「ねえねえ」
「あ、尋樹じゃーん。どしたあ?」
「その傘使う?」
「ん?あー、折り畳み?今日でかい方の傘持ってきてるから使わないよ。何、傘忘れたの?」
「ウン」
「いーよー貸したげるー。てか、一緒に帰んない?」
「ごめん、傘は借りるけど一緒には帰れないわー。先約があってさ」
「ざんねーん。尋樹、最近付き合い悪いじゃん。近いうち遊んでね」
「ウン」

そうして三城は女子から折り畳みの傘を借りて、こっちへ戻ってきた。
あの女の子かわいーなー。三城のやつ一緒に帰ればいいのに勿体ない。

「借りてきたー。ネクラくん一緒に帰ろ」
「え、さっきあの子に先約がある、って言ってなかった?」
「うん。ネクラくんと帰る先約」
「…そっか」

約束した覚え、ないんだけど…。てゆうか一緒に帰りたくないんだけど。気まずいし、何のバツゲームだよこれ。憂鬱な俺とは裏腹に三城は上機嫌な様子で俺の腕をぐいぐいと引き、共に玄関を出た。傘を広げる三城をげんなりと見つめていたら、あろうことか三城は自分だけではなく俺まで傘に入れてきた。
これ、ってまさかの…相合い傘?あの憧れの相合い傘?俺の記念すべきファースト相合い傘の相手が三城?
何のバツゲームだよこれ(2回目)

「帰ろ、ネクラくん」
「あ…うん…」

いや、ありがたいといえばありがたいんだけどね。濡れないし。ただ何となく、気持ち悪い。ぱしゃぱしゃと水溜まりの上を歩きながら、肩が触れ合いそうな程すぐ隣に居る三城をちらりと見上げると、向こうも俺を見ていたらしく目がばっちりと合ってしまった。俺は慌てて視線をそらす。

き…気まずい。可愛らしいピンクに白のストライプが入った傘に男二人で相合い傘。会話もなく黙々と歩き続ける。耐えられない。俺は意を決して、当たり障りの無い言葉を口にした。

「あ…あの、さっきの女の子…知り合い?」
「は?さっきの女?」
「その、傘貸してくれた…親しそうだったじゃん」
「ああ…。何か見たことあんなと思って声掛けただけ、名前も知らねえよ」

うわ、なんか最低だこいつ!まあ今さらだけど。
それは置いといて、ちょっとした会話のきっかけにはなったな…。家までの辛抱だ、繋ごう。

「何だよそれ…。というか名前も知らないんなら傘どうやって返すの?」
「さあ。向こうから来るんじゃねーの」
「適当すぎんだろ」
「そう?」

あれ…案外普通に喋れてない?やれば出来んじゃん俺。三城の方も変につっかかってこないしさ。

「か、可愛かったねさっきの子」
「あ?」

さっきまで、心なしか柔らかい声色で話していた三城が突然冷たい声を出し、びくりと肩が跳ねた。な、何が起こったんだ…

「三城?」
「お前、あんな女が好みな訳?ふざけんじゃねーぞ」
「え?いや…ごめん」

何で謝ってんだ俺。てゆうか何キレてんだ三城。

「紹介でもして欲しいって?言っとくけどネクラくんなんて相手にしてもらえないよ」
「別に紹介しろなんて一言も言ってないだろ」
「止めときなって、ネクラくんに彼女なんて絶対出来ないから」

三城の発言に流石にカチンと来た俺は、少し歩みを早め傘から出た。不愉快だ。こいつと一緒に帰るくらいな濡れたほうがマシ。

「ゆっ…柚希!」

どこか慌てた声で呼ばれるが、無視を決め込む。

…え、てゆうか今名前呼ばれた?しかも下の名前。

「柚希、待って、俺…」
「わっ…何だよ、触んな」

腕を掴まれ、びっくりして払いのける俺。何こいつ、何で付いてくるんだ。自分の家に帰れよ。あー、イライラする。眉を寄せながら振り返り、俺は驚いた。三城が、見たこともないくらい…何というか、泣きそうな顔をしていたから。

「な、何お前…どうしたの?」
「言いすぎた、ごめん。悪かった、から…一緒に帰ろう」
「…は?」

今、なんつった?あの…傍若無人最低自己中男三城が、俺に…見下しまくっているこの俺に謝った?空耳じゃないよね?あまりの事態に何て返せば良いのかわからず、まじまじと三城を見上げる。

「ゆ、柚希…」
「何で、名前…。てか、今謝った?お前」
「名前はその…思わず…。うん、謝った、謝ったから先に帰ったりしないで」

思わずって何だよ。意味不明すぎる。
…まー、でも、謝ってくれたんだしこれ以上冷たくすんのも大人げないか…。なんて考えてしまう俺って、ほんとお人好しだな。

「わ、わかった」
「…!ありがと、柚希。家もうすぐだろ?送ってく」
「…ありがとう」
「あの、向こうに見える赤い屋根の家だよな」
「うん。…ん?お前なんで俺の家知ってんの」
「………」

黙り込むなよ!怖いわ!背筋がぞっとするのと同時に、あの忌々しいペットボトル事件の事を思い出し俺は身震いをした。やばい、こいつに家を知られているとかちょっと、いや大分恐怖だ。

いや、でもだから何だと言うんだ。大体こいつの考えていることが全くわからないんだよな。ペットボトル事件も普通だったら、俺に好意を抱いてる?とか思いそうだけどこいつに至っては絶対ありえないし。だってこいつ、普段俺に暴言ばっか吐いてくるしいじめまくってくるし、絶対俺のこと嫌いだろ。だから意味がわからないんだ。今回だって、急に優しく?してきて…。新手のいじめかな。正直対応に困る。

俺がそう、ぐるぐると考えている間に家の前に着いた。あー良かった、やっと解放される。

「あ、傘入れてくれてさんきゅ…じゃあな」
「うん。また明日ね」

何事もなく別れ、俺は鍵を開けて家の中に入った。

「あんまり…考えないようにしよう」

考えてもわからないし。
三城のことは頭から追い出し、俺は少しだけ雨で濡れた制服を着替えようと自分の部屋へと向かった。



end.


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