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ペットボトル事件


教室の窓側、一番後ろ。そこが俺の席。
俺は大体いつも本を読むか音楽を聴きながら独りで過ごしている。
でも別に独りで居るのが好きだという訳じゃあない。

いきなり話が変わるんだけど、俺のクラスには三城 尋樹(みしろ ひろき)という奴が居る。
金髪に所々白いメッシュ入りという派手な髪型に、ずば抜けて秀麗な顔立ち。そしてちょっと不良っぽい性格。
クラスのリーダー的存在。寧ろボス。
まあ、どこの学校にも居るだろ?なんかイケてるグループに入っててチャラくてちょっと性格悪いやつ。
三城はそんなやつだ。

そいつが、俺をやたらイジりだした…いや、寧ろイジめだした時から、少しだけ居た友人たちが俺から離れていった。
最初はすごく悲しくて落ち込んだけど、そんなんで離れてく友達なんてこっちから願い下げだわ!
とか自分に言い聞かせて今は大分開き直っている。
実際、独りになったらなったで意外と快適な部分もあるしね、うん。

三城は相変わらず、俺をネクラやらオタクやら言ったり(俺はネクラ…かどうかはわかんないけど断じてオタクではない。あ、オタクが嫌いとかでは無いから勘違いしないように。ただ俺自身どう考えてもオタクじゃない)。あと、ことあるごとにからかってきたり。通りすがりに机を蹴りつけてきたり。雑用を押し付けてきたり。

どうして俺なんだ、と考えるのももう途中から止めにした。

そんなこんなで…俺はいつものように今日も独りで弁当を食べている。

その時、三城と他数人のチャラ仲間達が購買から教室に戻って来た。
あ、言い遅れたけど、運悪く三城は俺のひとつ前の席なんだよね。なんかよくわかんないけど、最初は違ったんだよ…席替えした時点では真面目な優等生くんが座ってた筈なのに、次の日からいつの間にか三城が座っていた。
絶対これも嫌がらせの一環。鬱だ。

三城は自分の席に来るなりわざとらしく椅子を引き、それが俺の机に勢いよく当たった。机が揺れ、俺の飲み掛けのお茶のペットボトルが机から床にゴトリと落ちた。

「あっ、ごめんねネクラくーん」

三城が楽しげに、全く悪びれの無い口調で俺に放つ。

蓋がきちんと閉まってなかったので、ペットボトルの中身のお茶が床に広がって行く。
それを見て三城とその他達はニヤニヤと笑っている。

俺はため息をひとつ吐き、静かに席を立つと掃除用具入れから雑巾を取り出して黙々とそれを拭いた。ペットボトルの中身はほぼ流れ出てしまい、僅かしか残っていない。もう飲む気もしないから捨てよう。そう思ったら、ふいに誰かか床に転がるペットボトルを拾い上げた。

訝しく思い見上げると…なんと三城。

「俺、超良い人だから捨ててきてやるよ」

…何を言っているんだ、三城。

「えー、なに、尋樹くん優しー!」
「キャラちげえし!ウケんだけど!」

三城の仲間たちがゲラゲラと笑っている。
キャラちげえ、という意見に俺も同感だ。
三城のやつ何考えてんだ?

「あ?俺は普段から優しいでしょーが」

ふざけたことを抜かして三城はペットボトル片手に教室を出ていった。
まじ訳わからん。

まあいいや。
俺は床を拭いた雑巾を洗って来ようと思い教室を出てトイレに向かった。

「…げ」

トイレの入り口付近には不良っぽい先輩方がたむろっていた。

…入りづれえええー。

少々面倒だが、今はほとんど生徒が使わない少し離れた古いトイレに向かうことにした。

「…あれ」

旧教室ばかり並んでいる廊下は人通りが無くてちょっと怖い気もする。なんか幽霊とか出そうだし…

ドキドキしながら曲がり角を曲がった時、あるものを視界に捉えて、俺は咄嗟に柱の影に身を隠した。

あ…あれは…

三城?
確かに三城だ。

片手に先ほどのペットボトルを持ったままゴミ箱の前でボーッとしている。

ペットボトル捨てに来たのか?
なんでわざわざここまで?

益々謎が深まる。
気になって様子を見てると、何やら三城が挙動不審になってきた。しきりに辺りを見回している。

なんだなんだ。

そして、右手に持っているペットボトルをじっと見つめ…

飲み口を、舐めた。



…舐めた?



「は…?」



一瞬思考が固まってしまった。
なにしてんの、あいつなにしてんの。

それ、俺のだよね?

いや、違うかもしれない。三城が自分で買ったやつかもしれない。
あ、でもあれコンビニ限定の…

いや、あいつのことだから誰かに貰ったのかも!よく女子から色んな献上品受け取ってるし…

「はあ…柚希のペットボトル…」

ぺろぺろと夢中で舐めたあと、三城がほんのりと頬を染め甘ったるい声で呟いたのが聞こえた。


あ。柚希ってのは俺の下の名前です。
瀬上 柚希(せがみ ゆずき)、よろしくねー。


って。
あああ!確信しちゃったよ!やっぱ俺のじゃん!なんで名前言っちゃうかなあ、知りたくなかったよ!

「…どうしよう…柚希と、ちゅうしちゃった…」

してねえよ!きもいんですけど!
え、あいつ本当にあの三城?

…混乱した俺は、気が付けば廊下を引き返して教室へ走っていた。
雑巾はいつの間にか消えていた。多分どっかに落とした。申し訳ない。



まあ、なんだ……
先ほどの出来事を境に、俺の中での三城が更に危険人物になったのは言うまでもない。


End.



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あきゅろす。
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