長い夢
ずくり、と疼いた牙
女を抱きかかえながら、夜空を飛び、自分が住む異世界へと入り込む。
魔界、と呼ぶべきそこは、次元が違うためか、常人が入ってくることはない。
ごく稀に、迷い込んでくる者もいるが、そういった者はすぐに魔物等のと餌食となるため、もといた世界へ帰った者はいない。
現世ではそれを「神隠し」などというらしいが、男には関係のない話だ。
自分の住む城へ辿り着き、広げていた翼をしまい込む。
そして、腕の中の女を抱えたまま、薄暗い城の中を歩き、自室を目指す。
長い廊下を歩き、大きな扉の前に辿り着く。
男が手を触れなくとも、扉は意思を持っているのかのように自動的に開く。
これも、男がバンパイアという特殊な種族ゆえに持ち合わせている不思議な力だ。
扉をくぐり、まっすぐ寝室を目指す。
そして、広々としたベッドに女を降ろした。
「本当に、美しい人だ」
微笑みながら髪を梳く。
さらさらとした手触りと共に、甘いシャンプーの匂いが辺りに漂う。
「っ!」
思わず首筋に噛み付きたくなる衝動を抑え、寝室を後にする。
このままここにいたら我慢がきかなくなると判断したからだ。
「今晩は、牢にいる女の血で我慢しましょうか。…そのために生かしているのだから、ね(妖笑)」
そう呟くと、男は地下にある牢屋を目指した。
牢につくと、手足を鎖に繋がれた女が何人かいた。
本来、バンパイアというものは、食事を終えた女を生かしておくようなことはしない。
だが、この男の用意周到な性格から、女を生かしていいる。
狩りに出たものの、美味しそうな餌にありつけない日や、今日のように餌を見つけても飲みごろを待たなければいけないような場合、食事がないと困るからだ。
男は、普通のバンパイアのように誰でもいいから血を吸う、という低俗なことはしないのが主義だった。
だからこそ、こうして気に入った餌を生かしておき、好きな時に血を吸える環境を整えていたのだ。
「さて、今日は誰の血をいただこうか…」
男が呟くと、鎖に繋がれた女たちが反応を示した。
みな、恍惚の表情で男を見やり、血を吸ってほしいと懇願する。
「ククッ、よく飼いならされたものだ」
吸血には痛みが伴うものだと思われがちだが、それは間違いである。
この男のように慣れたバンパイアにもなると、吸血の際に快楽をもたらすことが出来る。
ここにいる女たちは、絶頂にも近い快楽に魅せられた者なのである。
飼いならされた女たちは、本来は手足に鎖がなくても、逃げだすようなことはない。
したがって、これらの拘束具は女たちが自ら望んで付けていることになる。
それほどまでに従順に飼いならすことができたのは、この男が女の性質を見抜く力や、女の調教に長けていたからなのだが。
「さぁ、俺に血を捧げてもらいましょうか」
1人の女の手足の鎖を解くと、牢のさらに奥の部屋へと歩き出した。
本来ならば自室へ連れて行くのだが、先客がいるため、場所を変えたのだった。
とはいえ、奥の部屋というのも、本来拷問などに用いる部屋のため、調教中の先客がいるのだが。
奥の部屋へ着き、扉を開ける。
そこには、調教中と思われる女たちが甘い吐息をこぼしていた。
それを横目で見ながら、少し離れた位置にあるベッドに先ほど牢から連れてきた女を押し倒した。
「見られながらというのも、興奮するでしょう?」
「ぁ、…早、く」
待ちきれない、というように女が簡素な服を脱ぎ出した。
「そう急かさなくても、ちゃんと可愛がってあげますよ」
そう言うと、露わになった女の身体に舌を這わせる。
「ん…ぁ、ぁぁっ」
ビクビクと反応する様を見ながら、少しずつことを進めていく。
本来ならば牙を突き立てるだけで吸血は済むのだが、この男は、女の血が1番おいしく感じられる時に吸血するのが好きだった。
女の血が1番おいしく感じられる時。
それは、女が絶頂に達する時である。
それゆえ、この男は女の血が1番おいしくなる瞬間を作り出しているのだ。
「こんなにグチョグチョにして…そろそろ、イきたいでしょう?」
女の秘部に指を出し入れし、散々焦らしながら、女に求めさせる。
当たり前のことだが、男が自らの肉棒を女の秘部に突き刺すことはない。
そんなことをしたら、処女でなくなるからだ。
処女でなくなるということは、血の品質が落ちるということである。
それゆえ、こうして指や、時には玩具などを用いて女を責め立てるのだ。
「あぁっ!…もっ、イ…ちゃ、うぅっ!」
女の身体がのけぞろうとしたその瞬間、男は女の首筋に咬み付き、牙を突き立てた。
「ひぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
身体から湧き上がる絶頂、そして吸血から与えられる快感に、女の身体は尚一層ビクビクと痙攣するのであった。
男は、女の甘い血を吸いながら、自室で寝ている少女のことを考えるのであった。
ずくり、と疼いた牙
(嗚呼、早く牙を突き刺し、その温かな血を貪りたい)
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