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長い夢
満月の夜に、目覚めた悪夢
待ちに待った満月に、その男は口の端を吊り上げた。

「さて、久しぶりの狩りといきましょうか」

漆黒の翼を広げ、すべるように夜空へと飛び立った。





少し夜空の散歩を楽しんだ後、獲物探しに集中するために電柱へと降り立った。

「…あまり、美味しそうな匂いがしないな」

クンクンと空気に溶けた匂いを嗅いでみるも、そそられるような匂いはしない。

どうせなら美味しい血を味わいたいものだが、いかんせん久しぶりの食事。

贅沢は言ってられないかもしれない。

諦めて手頃な獲物を狩ろうと翼を広げた瞬間、どこからか甘い匂いが漂ってきた。

「いい、匂いだ」

鼻孔をくすぐる甘美な匂いに目を閉じ、獲物との距離を計る。

「南の方角、ね」

呟くと同時に再び夜空へと飛び上がり、匂いの元を目指した。






匂いの元は小さな一軒家の2階の部屋からのようだ。

2階の高さに合わせ、窓から様子を伺う。

その部屋には満月の光が差し、中の様子がよく見えた。

「…よく、寝ている」

男の言葉通り、部屋の主と思える人物は眠っているのか、動くことはない。

手をかざし窓の鍵を開け、部屋の中へと侵入する。

そして、ゆっくりと女の元へと近寄る。

「これはこれは………思っていたより、ずっと綺麗な人だ」

近寄って初めて分かるその女の美しさ。

男は利き手である左腕を伸ばし、その輪郭をなぞり頬に軽く口付けた。

「キミは実に美味しそうだ。…だが」

首筋を撫でながら言葉を続ける。

「少し待てば、もっと美味しくなるだろうね」

そう考えた男は、寝ている女を抱き抱え夜の闇の中へと姿を消した。









(これからゆっくりと飼い馴らしてあげましょう
 キミの血が1番美味しくなるその日まで)

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あきゅろす。
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