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長い夢
餌を愛してしまった
『ん・・・』

名前が目を覚まし、1番最初に目に入ったのは。

「おはよう」

『永四郎、さん』

木手だった。

『あの、この体勢は一体なんなんでしょうか?』

この体勢というのは、木手に抱きしめられている状況のことだ。

「昨夜のキミが、あまりにも可愛らしかったから、離したくなくなってね」

『昨夜・・・?』

そういえば記憶が飛んでいることを思い出し、昨夜のことを思い浮かべてみる。

すると・・・

『っっ(///)』

「思い出したようだね」

ボッ、と音が出そうなくらい急激に顔を赤くした名前を見ながら、木手はくつくつと笑い声をあげる。

「とても妖艶で、綺麗だったよ」

そう言うと名前の額に口づけを落とすが、名前は未だ顔を赤くし、言葉を発することができないでいる。

「こうしていてもいいけど、そろそろ俺の理性が崩れてしまいそうだから、起きようか・・・名残惜しいけどね」

そう言うと木手は名前に回していた腕を外し、身体を起こす。

つられて名前も身体を起こす。

「シャワーでも浴びるといい」

『え、ここにシャワーなんてあるんですか?』

「なかなかに失礼だね。それくらいあるよ・・・俺だって、昔は人間だったんだから習慣は残っている」

『え・・・?昔は、人間だった・・・?』

「!・・・いや、なんでもない。早く、浴びてきなさい。そこの扉だから」

その瞬間、音もなく木手の姿は消えてしまったので、会話はそこで終了となってしまった。

木手が漏らした言葉は、名前の胸にわだかまりを残すことになったが。

『本人がいないんじゃ、どうしようもないか・・・大人しく、シャワー行こ』







シャワーを浴び終え、髪を拭きながら部屋に戻ると、見知らぬ男がベッドに座っていた。

「おっ、ヤー〔お前〕が名前ってやつか?話は永四郎から聞いてるさあ。・・・ってか、永四郎知らんばー?」

『いえ・・・私も知らなくて』

きっとさっきのことが原因だろうな・・・と思いながら男を見る。

『あの、あなたは・・・?』

「あ?あぁ、わんの名前は平古場凛。聞いてないんば?」

『平古場、さん?・・・あぁっ!永四郎さんが前に話してた・・・!』

「聞いてるやっしー・・・やしが、永四郎がいると思ってここ来たのに」

ぶつぶつ文句を言う平古場。

確か、木手から話を聞いた限りでは、死にそうな状態だと・・・

もっとも、バンパイアという種族が死ぬのかは分からないが。

『あの、身体はもう大丈夫なんですか?』

「・・・ああ。なんとかな」

『そう、ですか・・・』

それっきり、会話は途切れてしまった。

何か話さなくては。

そう思った名前は先ほどの木手の話を思い出す。

『あのっ!・・・永四郎さんが元は人間だったって、本当ですか?』

「?あぁ、ついでにいうと、わん〔俺〕も」

『わん?』

「あー、“俺”ってことさぁ。方言ってーの?抜けないし、抜けさせる気もないんばーよ。・・・わったーが人間だった証やいぎに」

切ない顔をする平古場に、名前は思案を巡らす。

『(ばーとか言うのって、どこの方言だったけ?えっと・・・)』

「うちなーぐち、やさ」

『うちなーぐち・・・?あっ!沖縄!!』

「当たり。元は、沖縄にいた人間だったんばーよ」

『元は・・・?』

「知りたいか?」

『・・・はい』

「そうか・・・」

ーーもう何百年昔のことか分からないーー

その言葉を皮切りに平古場は口を開いた。


わったー〔俺たち〕は、元は人間だった。普通に学校に行って、勉強して、部活して。そんな生活が変わることなんてないと信じて疑わなかった。でも・・・ある日。仲間の一人がバンパイアに血を吸われた。そして、運悪くそのバンパイアに気に入られたらしく、バンパイアにされた。顔を青くして話す仲間を見れば、ゆくし〔嘘〕じゃないことなんて明白だった。だから、わったーは・・・一緒に堕ちることを選んだ


『一緒に、堕ちる?』

「わったーは絆が深くてな。そいつ1人だけいなくなるなんてこと、耐えられなかったんばーよ。だから、そいつの血を口にして、バンパイアになった。永四郎は、自分一人だけでいいってあびたんやしが〔言ったんだけど〕・・・大人しく聞くようなわったーじゃなくてな。・・・5人まとめて神隠しになったって、結構ニュースになったんだぜ?」

『そりゃ、大ニュースでしょうよ!5人もいなくなったって言ったら!』

「・・・本当はな」

『?』

「わったーと同い年だった女子マネージャーも一緒に堕ちるって聞かなかったんばーよ。やしが、そいつを巻き込むことなんてできなかった。だから、わったーはある日突然姿を消した」

『1人残したって、ことですか?』

「あぁ。わったーが大切にしたお姫様だからな」

「平古場君、おしゃべりはそのくらいにしておきなさいよ」

「永四郎!」

「全く・・・元気になるのはいいことだけど、名前にちょっかいを出すのはやめてもらえますかね?俺のなんだから」

『(アレ、永四郎さんの物になったつもりはないんですけどね?)』

木手の言葉に引っかかったものの、名前はそれを口に出すことはしなかった。

「暇そうだったから昔話してただけあんに?たまにはいいやっし!・・・やしが、どことなくアイツに似てるな」

そう言って平古場は僅かに目を細めた。

「っ!気のせいでしょう」

「そうかもな・・・じゃ、わんは裕次郎のとこにでも行ってくるさぁ。アニヒャー〔あいつ〕にも心配かけたしな」

「ついでに知念君と田仁志君にも顔を出してきたらどうです?彼らも心配してましたよ?」

「んー・・・気が向いたらな?じゃーやー」

そう言いひらひらと手を振ると平古場は窓から飛び降りたのだった。

『え、嘘っ!』

名前が慌てて窓の外を見ると、漆黒の羽を背に広げた平古場が悠々と空を飛んで行った。

『空飛んでる・・・』

「バンパイアですからね。驚きました?」

『そりゃあもう!でも、いいですね、空飛べるなんて・・・気持ちいいんでしょうね』

「今度、一緒に飛んでみますか?」

『いいんですか?』

子どものようにキラキラと目を輝かせる名前に、木手もまた、記憶の彼方にある彼女のことを思い出すのだった。

少し前までは、しぐさや声、柔らかな髪の感触や甘い匂いまでもはっきりと思い出せたのに。

「(今はもう、全てに靄がかったように曖昧だ)」

永すぎる時の中で、昔の記憶が少しずつ薄れてきてしまっている。

あんなにも、忘れたくないと願ったはずなのに。

「(名前は、なんだったか?・・・確か、名字は名字・・・?)」

そこでふと、眉根を寄せる。

「(名前と、同じ名字?・・・いや、偶然か)」

木手はゆるく頭を振り、都合のいい空想を振り払った。





「で、どこまで聞いたの?平古場君から」

『えっと・・・みなさんが、沖縄の生まれだったことと、5人みんなでバンパイアになったこと、マネージャーさんが一人いたことです』

「ほとんどだね。全く、おしゃべりな人だ」

『アハハ・・・でも平古場さん、なんだか寂しそうでした』

「寂しそう・・・ね。そうでしょう、今の俺たちは・・・人の血を啜る化け物だ」

『そ、そんなこと!』

「無理しなくていい。普通の感性なら怖がるのが道理だ」

『怖くないです。だって、あなた達はこんなにも暖かいじゃないですか』

そっと手を取り頬にあてる名前に、木手は大きく目を見開いた。

「暖かい・・・?」

『はい、私と同じく暖かいです。だから、自分を責めないでください』

「・・・キミという人は、俺が欲しいと思っていた言葉を簡単にくれるんだね」

そう言うと木手は、名前を抱きしめながら、涙を一筋零したのだった。







(この気持ちに嘘を吐くことなんか、できやしない)

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あきゅろす。
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