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長い夢
好物は処女の生き血
久しぶりの吸血により、少しだけ元気を取り戻した平古場は元いた部屋へ戻ろうとしたが、木手はそれを止めた。

「今までろくな食事を取っていなかったから、反動が来ると思うよ」

「反動………?」

「キミの細胞がすさまじい勢いで再生されるはずだ。だから、ここにいて少し休んだ方がいい。目が覚めたら、きっとまた血を欲するだろうから」

「………?」

「あの部屋とここを行き来するのが手間だと思うからね……幸い、餌はたくさん用意してある。分かりましたね?」

「ああ」






平古場を地下へ残し、何食わぬ顔で名前の元へと戻ってきた。

「…何か質問は見つかった?」

『あ………えっと、この城には私とあなた以外に誰かいるんですか?』

「…いないといえば嘘になるけれど、いるとも言い難いね」

『?それは、どういう…?』

「餌を飼殺している…と言えばいいかな?俺もバンパイアだからね、食事しないと」

『餌…?』

「キミと同じ、処女の女だよ」

『なっっ(///)』

ストレートな言葉に名前は赤面した。

「俺たちバンパイアはね、匂いで処女かどうか分かる。そして、キミはまだまだ未成熟だが特別いい匂いがする。成熟したらどんなに素晴らしい味がするんだろうと今から楽しみでならない」

髪をひと房掬い上げ、そっと口づける永四郎に再び身の危険を感じながらも、次の質問をぶつける。

『…血を吸われたら、どうなるの?やっぱり、吸われた人もバンパイアに?』

「吸血した後、俺たちバンパイアの血を数滴口にするか、俺たちバンパイアの血を傷口から少し注入すればバンパイアになる」

永四郎の言葉に、少し安心した名前がいた。

「(つまり、吸われるだけならバンパイアにはならないってことだよね。だったら、もし本当に血を吸われても大丈夫、なんだよね?)」

「少し、安心した?」

『えっ・・・』

「顔に書いてある。キミの表情はコロコロ変わって見ていて飽きない」

ククッと口元を押さえて笑うが、それがからかわれていることだと気付き、そっぽを向く。

『(なんか、むかつく!)』

「笑って悪かったね・・・お詫びに、少し昔話をしてあげるよ」

『昔、話・・・?』

「そう、人間に恋したバンパイアの話を」







そのバンパイアの男は、何百年という気の遠くなるような年月の中で、ある暇つぶしを思いついた。

それは、人間に成りすまし人間界で暮らすことだった。

思いのほか生活することは簡単だったし、食事もなんとかなった。

そんな生活の中で、1人の女性と出会った。

人懐っこい笑顔と物怖じしない性格に惹かれ、恋人になった。

そして、この人ならバンパイアだと告げてもきっと大丈夫だろうとバンパイアの男は正体を明かした。

案の定、その女性は受け入れてくれた。

だが、種族が違い、子どもをもうけることができなかった。

子どもを産むことが夢だった、と寂しそうに笑う女性に自分では役不足だと痛感し、その男は女性の前から姿を消した。

人を愛し、また愛されることを知ってしまったバンパイアの男には、それがひどく辛かった。

魔界に戻り、食事もろくに取らずに過ごす日々が続いた。

限界を感じたバンパイアの男は、再び人間界へと降り立った。

適当に食事を済ませ、片時も忘れたことのないあの女性を探し始めた。

幸い、嗅覚には優れている種族だから、その女性はすぐに見つかった。

やや年を取ったように見えるが、念願叶った子どもとその父親と思われる男とに囲まれ、幸せそうに笑っていた。

自分が姿を消してからそんなに月日は経っていないように思っていたが、バンパイアと人間とでは時間のたち方がこんなにも違うのかと考えながら、その家族を見つめていた。

それから、度々人間界に降り立ってはその家族を見守ることが男のささやかな楽しみになっていた。

そんなある日、子どもが交通事故にあった。

ひき逃げ、だった。

救急車が呼ばれ、病院で手術を終えたが予断を許さない状況だった。

そしてその夜、急に状態が悪化し子どもは息を引き取った。

泣き崩れる女性を見ていられなかったバンパイアの男は数年ぶりに彼女の前に姿を現した。

驚く女性をよそに、バンパイアの男はおもむろに自分の指を咬むとその指を子どもの口元へと押しつけた。

数秒すると、息を引き取ったはずの子どもが息を吹き返した。

女性は喜び、バンパイアの男に何度もお礼を言い、これからも会いに来てほしいと告げた。

その言葉を信じて次に会いに行ったとき、女性はバンパイアの男に詰め寄り、罵声を浴びせた。

子どもが血を欲するようになった、子どもを化け物にさせるくらいならあの時死なせた方がましだった、と。

虚ろな眼をした女性の手には杭と金槌が握られていて、寝息を立てる子どもの胸になんのためらいもなく突き立てた。

断末魔の叫びのあと、女性自身も自らの胸に刃物を突き立て死んでしまった。

バンパイアの男に残されたのは、虚無感だった。

よかれと思ってしたことが、この悲劇を招いてしまった。

バンパイアの男はそれを境に、二度と人間界に降り立つことはなかった………

という話です」

悲しそうに微笑む永四郎を見て、名前は何も言えなかった。

「この話はね、実は俺の仲間の話なんですよ」

『仲間…?』

「さっき、鍵のかかった部屋があると言ったでしょう?………そこに、彼がいる。あれからまた何百年と経ったけれど、彼はまだその傷が癒えていない。でも、大事な仲間だからね。俺は彼に生きていてほしい。だから、ここで面倒を見ているんですよ」

『その人の、名前は?』

「平古場凛。……もっとも、ここまで詳細に話すつもりはなかったんだけどね。何故か話してしまった。キミにも、不思議な力があるようだね」

『そんな…』

「さっき傷が癒えていないと話したけど、実は少しだけ立ち直れたようでね。だから、もう少ししたら会ってやってほしい」

『私が会って大丈夫なんですか?』

「幸い、彼は競争心が強くてね…俺をキミに取られたと思ってきっと元気を取り戻すはずだ」

『(取られるって………まさか木手さんのことが好き、なの?)』

「…失礼な想像をしているようだけど、違うからね」

『で、ですよね(苦笑)』

眉間に皺を寄せている木手に、思わず名前は笑ってしまった。

「何がおかしい?」

『木手さんもそんな顔するんだな、って・・・フフッ』

「…心外ですね」

『ごめんなさい。でも、なんか安心しました!少し、ここでの生活が楽しくなりそうで』

「…餌の分際で」

『でも、まだ未成熟なんでしょ?ふふっ、時間はたっぷりありそうですね!』








(処女ゆえに純粋。その純粋さに惹かれていく)






†あとがき†

凛ちゃん登場!
最初の予定では名前ちゃんの血を飲もうと襲わせるはずだったのですが、キャラが一人歩きした結果、こんな設定に。
ごめんね凛ちゃん。

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