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長い夢
紫に揺らめく瞳に
吸血を終え、自室へと戻る。

しかし、未だ彼女が目覚める気配はない。

「早く、目を覚ましなさい。俺はキミと話がしてみたい」

そう呟いたものの、本当に話ができるかは謎だ。

目が覚めたら知らない場所にいて、尚且つ知らない男がいるのだから。

しかも、それがバンパイアであるのだから。

彼女は怯えるだろうか?

泣きだすだろうか?

小さな身体を震えさせるのだろうか?

元いた世界へ帰してと言うのだろうか?

…いずれにしても、彼の嗜虐心を煽るだけなのだが。





飽きることなく女の寝顔を見つめていると、もうすっかり夜が明けていることに気が付く。

「おやおや、随分明るいと思ったらもう朝ですか」

カーテンを引くことで、薄暗かった部屋に光が差し込む。

「…俺たちにとっては、あまりいい光ではないけどね」

目を細めて外を見やる。

どうやら、バンパイアだからといって太陽光に当たれない訳ではないようだ。

もちろん、まったく平気という訳でもないのだが。

『………ん』

朝日が入ったからだろうか。

先ほどまで熟睡していた女が目を覚ました。

「ようやくお目覚めですか?」

くるり、と太陽光に背を向ける。

そのせいで逆光となり、女からは表情はもちろん、誰なのかも見ることができない。

『だ、誰?』

「俺は木手永四郎。バンパイア…といえば分かってもらえますかね?」

『バ、ンパイア…??』

寝起きで頭が働かないのか、言われた言葉をそのまま繰り返す。

「キミをここに連れてきた張本人ですよ」

言われて初めて周りをキョロキョロ見回す。

大きな部屋に大きなベッド。

少なくとも、自分の部屋でないことは理解できた。

『ここは、どこ?』

「…キミたちの世界と似て非なるもの。キミの世界の言葉を借りるなら“魔界”と言った方が分かりやすいですかね?」

腕を組み、左手を顎に当て考えるようなポーズをとる。

『魔界?どうして、私がこんなところに連れてこられたの?』

「さっきも言ったでしょう?俺が連れて来た。…キミの血をいただくために」

瞬時に距離を詰め、女に跨がり自由を拘束する。

『…ち、血?』

「ええ。俺はバンパイアですからね。ほら、ちゃんと牙もある」

ニッと笑い鋭く尖った牙を見せつける。

その瞬間に女の顔が強張る。

『や、やだ…』

そんな女の耳元に口を寄せ、囁く。

「安心しなさい。今はまだ、その時ではないから。キミの血が1番おいしく熟成されるまで待ってあげますから」

『い、“今は”?』

「時が来たら、ここに俺の牙を突き立てて温かい血をいただきます。…ああ、その時にはキミにも素晴らしい快楽を与えてあげますよ」

白い首筋を撫で、そう告げる。

「逃げだすなんて、できませんよ?…ここはキミがいた世界とは次元が違うのだから」

これからのことを思い描き、意地悪く吊り上がる口元。

女は絶望の表情を浮かべることしかできなかった。









(瞳に映るのは、怯えきったキミ)

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