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生きる理由 †ヤンデレ(嫌われ)
本土から、転入生がやってきた



その子を一目見た瞬間、全身の毛が逆立った



純粋に、自分のものにしたいと思った





わんが一目惚れしたその子は、軽く自己紹介をしたあと、空いた席へと向かう。

当然のごとく、視線が集まる。

そのことに、イライラした。

見るな。

彼女は、わんのものだ。

彼女を見ていいのは、わんだけだ。

冷静さを取り戻すために、手のひらに爪を立てる。

ピリ、とした痛みとともに一歩引いた目で教室内を見ることができた。

さっきとは違う、視線の集まり方。

ああ、これは・・・

ヤマトンチュー〔本土もん〕を嫌う目だ。

みんな、ヤマトンチューというだけで、彼女を敵視している。

「(これは、使えるあんに)」

にやり、と口の端が吊り上がる。

それを大きな手で隠しながら、この状況を上手く運べるよう思案を巡らせた。





うちなーんちゅ〔沖縄の人〕は、潜在的な意識の中でヤマトンチューを嫌う。

そのせいか、特にわんが何かするまでもなく、彼女は孤立していった。

わんがしたことといえば、根も葉もなく流れてきた噂に少しばかり尾ひれを付けたことくらいだ。

そんなことをしておいて、しらじらしくもわんは声をかける。

「名字さん、大丈夫ば?」

『あ、えっと・・・知念君、だっけ?』

控え目に出された声と、名前を呼ばれたことに優越感を抱く。

「うん。名字さんが辛そうなちら〔顔〕してるやいぎに・・・わんで良ければ、力になるさ」

そう言うと、名前の目に涙が浮かび、わんの加虐心を煽った。

『ありがとう、でも大丈夫』

ふんわりと笑う彼女の笑顔は確かに可愛かったが、まだ余裕が窺えた。

つまらない。

まだ、わんの出番じゃない。

心が悲鳴を上げた時こそ、チャンスなのだから。

その時こそ、名前の心の中に

「容易に入り込める」

『え?なんのこと?』

わんの呟きにきょとんと首を傾げる名前。

ああ、無意識に声に出していたか。

「なんでもないさぁ・・・ちばれよ〔頑張れよ〕」

頭をポン、と叩くと名前から離れた。

自席に戻ると、クラスの連中に

「やー〔お前〕、よくあにひゃー〔あいつ〕と話せるな」

なんて話しかけられた。

ちらり、と名前を見やれば、聞き耳を立てているようで、俺の株を上げるにはちょうどいい機会だと思った。

「名字さんはやったーが思ってるような人じゃねーらんど!」

少し怒気を含んで言えば、クラスの奴らは口を噤んだ。

再び名前の方を見ると、驚いたような顔をした後、控え目に微笑んでいた。

どうやら、計算通りに俺の株は上がったらしい。

それを悟らせないよう、目が合ったことに照れたフリをして頭を掻いておく。

もう少し、泳がせておこう。





あれから数週間。

もちろん、名前をとりまく環境は変わらない。

当たり前だ。

みんな、いじめというゲームを楽しんでいるのだから。

そう簡単には、手を引かないだろう。

かくいうわんも、名前を手に入れるまでこのゲームを辞めるつもりはない。

「名前」

あれから、着実に信頼を得たわんは、名前のことを呼び捨てで呼べるまでになり、名前もわんのことをヒロ君と呼ぶようになった。

『どうしたの、ヒロ君?』

「悲しい瞳、してるさぁ・・・」

『ありがとう、でも大丈夫』

いつかのセリフを再び口にする。

だが、今回の笑みは違う。

触れると壊れてしまいそうな危険さを孕んでいる。

「(ああ、ようやく・・・か)」

時が来たことを悟り、にんまりと口元が歪んでいく。

それを悟られないよう、二言三言言葉を交わし、離れた。





名前に限界が来た。

心の拠り所がない彼女のことだ。

周りを憎むこともできずに、自ら命を手放す道を選ぶのだろう。

ここまではわんの計画通りだ。

問題は、それがいつなのかだ。

うかうかしていたら、今までしてきたことが全て水の泡になってしまう。

そう考えるわんに、近くの席の女子の会話が聞こえてくる。

「あにひゃーぬ靴、今日隠そうと思うんばーよ!しかも、外履き!」

「うわ、帰れなくなるあんにー」

「それが狙いさぁー」

ケラケラ笑って話す彼女達に、わんの笑みも濃くなった。

どうやら、その時というやつは、今日になりそうだ。

そう思いながら、真っ直ぐ木手のところへ行き、私用を理由に部活を休むことを告げた。





そして放課後。

外履きを探す名前をこっそり見ていた。

何時間もかけて見つけたそれは、とても履けるような状態ではなく、名前は内履きのままトボトボ帰っていく。

そこに、1台のトラックが通りかかった。

眩しいほどのヘッドライトとけたたましいクラクションが聞こえるが、虚ろな眼をした彼女は動かない。

今、だ。

そう思ったわんは縮地法で距離を詰め、抱きしめる。

「ふらー!死ぬとこだったあんに!」

『え・・・っヒロ、君』

わんが言うと、これでもかという程目を見開く名前。

そして、ぽろぽろと涙を溢れさせた。

『私、もうっ・・・辛くて、死にたくて!・・・どうして助けたの?私に、生きる理由なんてないっ!』

彼女の叫びに耳を傾け、静かに口を開く。

「生きる理由が必要なんば?」

『・・・うん、理由が欲しい。じゃなきゃ、苦しい』

「そうか、なら・・・わんのために生きろ」

『・・・え?』

「わんのために生きて、わんだけを愛せ。それが、やーの生きる理由」

そして一度言葉を区切り、瞳を見つめて言う。

「それさえ守れば、わんはやーを1人にしない」

誘導的な言葉に、名前は素直に頷いた。





あの日から。

名前をとりまく環境は大きく変わった。

もともと彼女は何もしていないのだから、当然といえば当然だ。

誰も、彼女の誤解を解こうとしなかっただけなのだから。

手始めにわったーテニス部の誤解を解き、それが次第にクラスにも広がっていった。

今では、ヤマトンチューと言われ孤立していた名前はクラスの一員として毎日を過ごしている。

『ヒロ君、学食行かない?』

「行くさぁ」

小さな手を握って学食へと向かう途中、名前は口を開いた。

『ヒロ君、本当にありがとうね』

「ぬーやが?急に」

『ヒロ君が私の誤解を解くために頑張ってくれたから、クラスに馴染めるようになったの。だから、本当にありがとう』

「わんは、たいしたくとしてないさぁ」

『そんなことない。・・・ヒロ君は、死のうとしていた私に生きる理由をくれたの。だから私は、これからもヒロ君のために生きて、ヒロ君だけを愛するからね』

そう言うと名前はわんの瞳を見つめた。

うちなーの夜空に輝く星のようなキラキラとした光は、そこにはない。

暗い暗い、海の底のような虚ろな色をしていた。

だが、それでいい。

わんの刷り込みは、成功したのだから。

もし、わんが別れようと口にしたならば、今度こそ名前は命を手放すだろう。

でも、大丈夫だ。

わんは、絶対に名前を手放したりしない。

これからも、わんにだけ愛を捧げるように仕込んでやる。





他の奴らに目を向けず



盲目的に、わんだけを愛すること



それが、わんがやーに与えた



生きる理由





(全てわんが仕組んだことに、名前は気付かない)





†あとがき

以前、『依存し合う』というリクエストをもらった時に思い付いたんだけど結局ボツにしたやつです。
依存、というよりはヤンデレ?ちっくというか、嫌われ?のジャンルになるかなーという理由でボツに。
でも、せっかくここまで話浮かんだからUPしたいな…ってことで今日に至ります。

久しぶりに書いた夢ですので、多少のことには目を瞑っていただけると救われます。
それでは、お読みいただきありがとうございました!

※作中に沖縄の人が本土の人を潜在的な意識の中で嫌うという表現がありますが、これは諒が作った架空の設定です。お間違えのないようお願いいたします。

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