夢 北極星 †相互記念(甘微裏) 星を見るのが好きだった うちなーの空に輝く、まばゆいほどの光の粒 なかでも特に好きなのが 北極星 天の北極に最も近くて、永久に輝き続ける星 この広い地球で北の方角の目印となる星 高校3年生。 子どもでもなく、大人でもない微妙な年頃。 私の目の前には、進路調査の紙。 どうしても進路が思いつかなくて、白紙で提出したのがいけなかったらしい。 帰ろうと席を立った瞬間担任に捕まり、ちゃんと書くまで居残りと告げられた。 そんな訳で机に向かうも、全然思いつかない。 『思いつかないから白紙で出したのに……そもそも、一日で考えろなんて無理に決まってるあんに…』 机に顎を乗せ、目を閉じる。 そして、自分の進路…もとい将来のことを想像してみる。 私はこれといって勉強ができる訳でもないし、運動ができる訳でもない。 なんの取り柄もない、どこにでもいるような人間。 社会に貢献できることといえば、子どもを産んで少子化を食い止めることくらいだろう。 『そんな私に、どう進路を考えろっていうんばーよ…』 呟く声は、空気に溶けた。 すっかり暗くなった帰り道を歩く。 あのあと担任が来たものの、全く埋まらない進路調査の紙に苦笑いし、月曜日までの宿題だと言ったのだ(ちなみに今日は金曜日) それで、現在に至る。 家に帰る気にはなれず、その足で海に向かった。 わったーうちなーんちゅ〔私たち沖縄人〕が愛してやまない、母なる海に。 砂が乾いていることと波が来ないことを確認して腰を下ろす。 そして、空を見上げた。 『ちゅらさん〔きれい〕な星あんに』 千、いや億はあるだろう星にため息をもらす。 そして、無意識にあの星を探す。 『あった、ニーヌファブシ〔北極星〕……あそこが、北か』 すぐに見つかった北極星と、なかなか見つからない自分の将来をつい重ねてしまう。 『私の将来にも、導いてくれる星があればいいのに……』 完全に1人だと、油断して呟いた言葉。 しかし、今回ばかりはその言葉に返事が返ってきた。 「そんな都合のいい星、あるわけないでしょ」 『え………』 聞こえた声は、幼馴染の永四郎の声で。 『ぬーんち、ここに?』 「おばさんが、キミが帰ってこないと俺の母親に話したようでね。“探してこい”と言われてね」 迷惑な話だよ、と付けたすと、永四郎は私の横に腰を降ろした。 「で?…なにをそんなに悩んでるの?」 『……永四郎には分からないさ』 「そりゃ、話してもいないことを分かるわけないでしょう?」 永四郎の正論と、突き刺さるような視線に耐えきれなくなった私は、大人しく口を開いた。 『将来……ううん、進路のことやさ』 「進路?」 『今日の朝、進路調査の紙が配られたでしょ?なんにも思いつかなくて』 「それで?」 『書かないで提出したら居残りさせられた。それでも思いつかなくて、私ってなんなんだろうって思ったの……永四郎は、進路は決めてあるば?』 「当たり前でしょ」 『……裏切り者』 「ひどい言われようですね。……自分将来なんですから、決めていて当然でしょう?」 『それを決めれてない私は、なんなのさ』 私がそう言うと、永四郎はわざとらしく顎に手をやって考えるポーズをとった。 そして、遠慮なく毒を吐いた。 「バカ、と言えば傷付くでしょうが、それ以外当てはまる言葉がありませんね」 『っ!』 何なんだ、この男は。 私は真剣に悩んでるってのに、バカ呼ばわりするなんて…! 悔しくて、でもなにも言い返すことができない。 ジワリと涙が浮かんできたけど、絶対に泣いてなんかやるもんか。 「でも、そうだね」 『な、によ……』 「俺がキミの北極星になってもいいよ」 『………え?』 「俺が名前を、幸せな将来へと導くと言ってるんです」 する、と私の頬を撫で永四郎は言葉を続ける。 「名前は今まで通り、俺の隣で笑っていればいい」 そのまま頬を包み込まれ、至近距離で視線を合わせられる。 妖しい光を放つ紫色の瞳と、北極星が重なり、一瞬言葉を失う。 が、なんとか言葉を絞り出す。 『永四郎、……ち、近いって』 私の言葉など聞こえないかのように、永四郎の顔はどんどん近付いていく。 「名前の未来は、俺のものだ」 そう言うと、永四郎は大層意地悪く笑った後私の唇に口付けた。 「返事は“はい”しか認めない」 その言葉に、不覚にも首を上下に動かしてしまった私。 そんな私を見て満足そうに笑うと、永四郎は私を横抱きにして持ち上げた。 『え、ちょっ!』 「なんですか?」 『なんで私持ち上げられてるんば?』 「未来よりも先に、身体を俺のものにしようかと思ってね…」 『ぬぅがよ!降ろしてよ!』 「はいはい。暴れないで下さいね」 ジタバタと手足を動かしてはみたものの、それらは全て無駄な抵抗に終わった。 『ねぇ、お願いだから降ろして!歩けるから!』 「…しょうがないね」 小さくため息を付くと、永四郎は私を降ろしてくれた。 そして、代わりとばかりに手を握られ、2人で歩く帰り道。 そのまま、何気なく後ろを振り向くと、北極星が静かに輝いていた。 もし、私が再度道に迷うことがあっても、もう大丈夫 なぜなら、私には 私のすぐそばで永久に輝き続け 私を導いてくれる 北極星があるのだから END おまけ 「ところで…俺の部屋と名前の部屋、どっちがいい?」 『ぬぅがよ?』 「なにって、このあと名前とセックスするつもりでいたんだけど」 『え?あれって本気だったんば?』 「当たり前でしょう?…で、どっち?」 『ちなみに、拒否権なんてものは……』 「ないよ」 『ですよねー!』 あんまー〔お母さん〕、わっさいびーん…… あなたの娘は、今日大人の階段を登ることになりそうです… †あとがき† お待たせしました! 木手のアルバム曲「北極星」になぞらえた夢を書きたいなーと思っていたのですが、今回、それを実現させてみました。 甘裏とのことでしたが、裏を書こうとすると激裏になってしまいそうで、断念しました。 あと、海にいる設定なので、外で行為に及ぶ訳にもいかず…… 木手様は恥じらいもなくおせっくすとか言いそうですよね(笑) マセてらっしゃる… こんな駄文ですが、相互記念夢として捧げてもよろしいでしょうか? 「甘裏っていったんだからちゃんと書きなさいよクズ!」 という苦情も随時受け付けますので…(;^_^A [次へ#] [戻る] |