夢
ないない尽くしのプロポーズ †甘夢
私には付き合って6年になる恋人がいる。
中学1年で知り合ったものの、あの頃は誰が1番とかそんなのなくて、ただみんなが大好きだった。
その好きが変わっていったのが高校1年の時。
いつも一緒にバカやってた裕次郎のことを、男として意識し始めた。
それから紆余曲折を経て両想いになって付き合い始めたのが高校2年
それから別れそうにもなったこともあったけど、気付けばもう6年一緒にいた
年も年だし、正直に言うと結婚を意識してきたのだけど
あいつには、その気があるのかないのか………
部屋でごろごろしていた昼下がり。
BGMとして流していたテレビから、突然幸せそうな音楽が流れる。
何事かとテレビを見れば、純白のドレスを着た花嫁とタキシードを着こなした花婿。
どうやら、結婚式を取り上げた番組らしい。
花嫁も花婿も幸せそうに笑っていて、素直に羨ましいと思った。
『いいなー、私もこんな素敵な結婚式したいなー』
そう呟いて浮かぶのは、愛しい恋人の顔。
『アレ、そういえば長年付き合ってきたけど、裕次郎から結婚の話聞いたことないような…?』
記憶の糸を手繰ってみるが、確かにそんな話は聞いたことがない。
その事実に気付いてしまい、一気に不安にかられる。
『もしかして、恋人=結婚相手じゃない!?』
よく男の人は付き合う相手と結婚したい相手が一緒ではないというけれど。
まさか、それが裕次郎にも当てはまるのか?
そうだとすれば。
『どうしよ、私、近いうちに振られたりして……』
自分で言っておきながら、泣きそうになっている自分に気が付いた。
嫌、だ。
だって私はこんなにも裕次郎のことが好きなのに。
今更離れるなんてできない。できやしない。
そうなったらきっと私は死んでしまう。
『ねえ、やだよ…裕次郎』
涙が滲んだ目で携帯を開き、裕次郎という文字を見つけ、電話をかける。
数コール続いた後、独特の訛りが聞こえてきた。
「ゆーしーねーしー〔もしもし〕?」
いつもならその声を聞くとひどく安心するはずなのに、今日は全然安心できなかった。
『………』
「あい?名前?聞こえてるんば?」
『だ、いじょうぶ……聞こえてるから』
「ぬぅがんばーよ?泣いちょるぬみー?〔どうした?泣いてんのか〕?」
普段は鈍いくせに、私が泣いてるときだけは凄く鋭い。
きっと、すごくワタワタしてるんだろーなーなんて、容易に想像できた。
『全然、泣いてないよ・・・今日はハンバーグだから玉ねぎのみじん切りしてて、目にしみてるだけだし』
素直に泣いてるんだと言えたらいいのだろうが、もうあの頃のような子どもではない。
感情を表に出すことが、ひどく不器用になってしまった。
優しい裕次郎は、こんな電話をもらったら放っておけるはずないと分かっているのに。
分かっていて電話した私は、なんて嫌な女なのだろうか。
「待ってろ、なま〔今〕そっち行くさあ!」
『………いい。本当に大丈夫だから』
そう告げると裕次郎の返事も聞かずに一方的に電話を切った。
ベッドに横たわると、起きる気力さえ湧かなかった。
なにより、裕次郎を信じられない自分が嫌で、このまま空気に溶けてしまいたかった。
ゆるりと襲ってきた睡魔に身を委ねると、身体がふわりと浮いたようで、少し気持ちが軽くなった。
なんだろう?
誰かに頭を撫でてもらってるような………
すごく、安心する。
この感じは…
そう、裕次郎に頭を撫でてもらってる時のあの感覚だ。
『………んぅ』
細く目を開けると、心配そうな顔をした裕次郎が私の頭を撫でていた。
『ゆ、じろう…?』
なんでここに?という私の問いは彼の言葉にかき消された。
「名前が泣いてるみたいだったから、外回りの途中だったけど抜けてきたさぁ」
優しく微笑う裕次郎に、胸が痛くなった。
『泣いて、ないよ?』
「ゆくさー〔嘘つき〕………この家、ハンバーグの匂いなんてしないあんに?」
『あっ!!』
そういえばそんな苦しい言い訳をした気がする。
まさか本当に裕次郎が来るなんて思わなかったから適当に言ったのに、まさかそれが仇になろうとは。
「で、ぬーんち泣いてたんば?」
ずい、と顔を近づけて真っ直ぐ目を見る裕次郎。
うう、恥ずかしいからこれ苦手なの分かってるクセに…!
『な、なんでもないし!』
「………名前?」
いつもより低い声色が聞こえ、身体がびくりと跳ねる。
なんだろ、裕次郎のバックに黒い雲みたいなものが見える…
これは、素直に話した方がいい…かな?
『怖い、の……』
「ぬーやが〔なにが〕?」
『裕次郎に、捨てられるんじゃないかって思って』
「捨てる?なんでよ?」
『だって裕次郎、全然結婚の話とかしないし……私とは結婚する気ないのかと思って…そしたら、すごく怖くなって………』
言いきってから、ぎゅっと目を瞑る。
肯定の言葉を聞くのが怖かったから。
すると、小さくため息が聞こえて裕次郎の体温が離れていくのが分かった。
ああ、やっぱり捨てられるんだ……
そう思い観念して目を開けたら、なにかを持った裕次郎が再び近付いてきた。
「これ」
『?』
渡されたのは、雑誌。
その雑誌は何度も読み返されているようで、ボロボロになっていた。
『これは?』
「だぁぁぁぁぁぁ!!もう、よく見ちみー!?」
言われて真面目に目を落とす。
『これ・・・結婚、情報誌?』
ウエディングドレスを着た外人さんが写っているのだから、間違いないだろう。
え、ちょっと待って。
結婚情報誌………?
『なんで、裕次郎が?』
「…俺だって、そろそろ結婚考えてたっての!やしが、こーゆーのは男がリードするもんだって永四郎が言うから先に勉強しておいておこうと思って!」
言われてもう1度雑誌を見やる。
確かに、ボロボロだしところどころ付箋が貼ってある。
『じゃあ、結婚考えてくれてたの?』
「じゃなきゃ、こんなもん読まないっての」
少しむくれた顔で、裕次郎は言った。
「ムード作ってから、って思ったのに台無しやさ」
『あはは、ごめん』
「ごめんじゃないあんに!全く!………で、返事は?」
『え?』
「あんすぐとぅー、結婚の返事!」
『あー………ちゃんと、言葉にしてほしいなーなんて』
「はぁ!?」
『だ、だって、ちゃんと言ってほしいんだもん!』
「しょうがないやー………うり、言うぞ」
『うん』
「名前、俺と結婚してください」
『…喜んで!』
笑顔でそう言うと、裕次郎は私の左手を取り、薬指に口づけた。
「とりあえず、明日雑誌の最新号買いに行かないとだな!」
『うん!!』
私が受けたプロポーズは
綺麗な夜景もなくてムードもない、もちろん指輪もない
ないない尽くしのものだったけど
確かに存在したものがある
それは、ボロボロになるくらい読み返された結婚情報誌と
大好きな人からの愛の言葉だった
END
†あとがき†
ちょっとした補足。
二人はまだ同居まで至ってないカップル。
お互いまだ家族と住んでるって感じでしょうか?
それなのに何故裕次郎は名前の部屋にいたのか?
答えは至って簡単。
名前のお母様が入れてくれたからさ!
ってか、裕次郎指輪に関しては何も言ってねぇし!
ちなみにこのネタ、いつだかテレビでやってるのを見た。
ただ、そこでは
「彼氏が誕生日忘れたって言って、プレゼントも買い忘れたからコレあげるって渡されたのが雑誌で、はぁーマジふざけんな!って開けたら、結婚情報誌だった」
ってゆーエピソードを勝手に拝借。
その流れで書き進めるつもりが、キャラが一人歩きしていって全然違う流れに。
おかげで著作権にも引っかからずに済みそうです(笑)
あ、ちなみに結婚情報誌ってのは、もちろんあの有名なゼ○シィででした(笑)
音楽も福山よりはカエラって感じのイメージかなぁ…
裕次郎はね、今後の流れとかそーゆー悩みを事細かに永四郎に相談してればいいと思うよ!
比嘉んちゅ特有の、異常なまでの永四郎への信頼プライスレス。
では、お読みいただきありがとうございました。
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