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毒蜘蛛 †相互記念(甘夢)
張り巡らされた蜘蛛の糸



気付いた時には



既に手遅れ





私には分からない。

自分が何故こんな状況になっているのかを。

こんな状況というのは………





「くぬひゃー〔こいつ〕が名前ってやつだばぁ?」

「全然たいしたことないあんに!?」

「ぬーんち〔なんで〕木手君はこんなやつのこと…!」

私を取り囲み、品定めでもするようにジロジロと見てくる、少し化粧の濃い女の子達。

おかしいな、私は借りた本を返すべく図書室に向かっていたはずなのに…

図書室に着く前に女の子達に取り囲まれてしまったのだ。

『あの、いきなりなんでしょうか?』

「あんた、木手君とどんな関係さぁ!?」

『木手、君?』

はて、私に木手君という知り合いはいただろうか?

「男子テニス部のキャプテンやさ!」

『男子テニス部…?』

男子テニス部といえば、確かイケメン揃いでファンクラブもあるという噂のある部活のはず。

でも。

私はその男子テニス部とやらに知り合いはいないし、関わったこともないはずだ。

『人違いじゃないですか?だって私、テニス部の人と関わった記憶もないし…』

「じゃあ、ぬーんち木手君はやー〔あんた〕のこと知ってるんばーよ!」

目くじらを立てて彼女は言う。

正直、すごく怖い。

私が知らないであろう人がなぜ私を知っているのかを聞かれても、私には分からないに決まってるじゃないか。

『そんなことを私に聞かれましても…』

私の返答が気に食わなかったのか、近くにいた女の子が片手を振り上げた。

殴られる!

そう思って反射的に目をつぶった瞬間、低い声が響いた。

「…なにをしているんですかね?」

「き、木手君!」

「ち、違うの!これには訳があって!」

「…訳?」

「そう!だって、木手君がくぬひゃーぬくとぅ〔こいつのこと〕しちゅん〔好き〕って噂が立ってたから!」

「わったー〔私たち〕は、それを確かめてただけなんばーよ!」

「木手君のために、わったーが代わりに…!」

リーダー格と思われる女の子がそう言った瞬間、周りの空気が冷たくなった。

「“俺の代わりに”……?そんなくだらないこと、俺がいつ頼みましたか?」

「それは…」

「はっきり言いましょう。君たちがしていることは、俺のためでもなんでもない。ただの自己満足だ。…目障りだ、早く消えなさい」

肌を刺すような殺気に女の子達は顔を真っ青にして去って行った。

私はというと、緊張が解けたからか、その場にへたり込んでしまった。

「…大丈夫ですか?少し、休んだほうがいい」

そう言うと、私を軽々と抱きかかえ、図書室へと入った。





図書室へ入り、私を椅子へと座らせると同時に、木手君は口を開いた。

「すみませんでした」

『…え?』

「俺のせいで、キミのきれいな顔に傷を作るところでした」

私の頬を撫でながら木手君は言う。

『いや、でも、叩かれる前に助けてもらった訳だし実際傷ついた訳でもないし…気にしないで?』

「キミは優しいね」

『いや、そんなことはないと思うんだけど』

そう言うと、木手君が少し言いにくそうに口を開いた。

「…そういえば、だけど」

『なに?』

「先ほど彼女達が言っていたこと、覚えていますか?」

『あ、私のことが好きってやつ?大丈夫。タチの悪い噂だって、分かってるから』

「…噂だと、思うの?」

『え…だ、だって、私と木手君は初対面だし……』

「…俺の一目惚れだと言ったら、どうする?」

木手君の顔が段々と近付いてきて、危機感を感じた私は椅子から立ち上がり、思わず後ろへと下がる。

が、私が一歩下がれば彼も一歩近づいてくる。

そんな一進一退が長く続く訳もなく、私の背中には冷たい壁があり、これ以上下がることはできなくなってしまった。

そして気が付けば彼の両腕が私の顔の横にあり、逃げ場は完全になくなってしまった。

『木手君っっ、冗談にしては、笑えないよっ』

顔を逸らせそう言うが、木手君の大きな手によって無理やり視線を合わせられる。

「冗談じゃない。俺は君のことが好きなんです。そして…」

木手君は私をまっすぐ見つめ、口を開いた。

「キミは俺を好きになる。………絶対に、ね」

そういうと木手君は私の首筋に咬み付いた。

『いっ、た!』

痛みに顔を顰めるが、次の瞬間、ネロリという感触に背筋が泡立つ。

「…今日はここまでにしておきましょう。楽しみはとっておく主義なんでね」

そういうと木手君はスタスタとドアまで歩きだし、振り向きざまにこう言った。

「俺のことが好きだと気付いたら、いつでも会いに来るといい」

そう言い残すと、木手君は去って行った。

私はというと、背を壁に預けたままズルズルと座り込んでしまった。

そして、本格的に痛み出した首筋にそっと手をあて、自宅に帰るため、図書室を後にした。





そんなことがあって数日。

木手君に咬まれた痕は未だに消えていないため、絆創膏で隠しながら学校生活を送っていた。

今まで意識したことがなかっただけで、私は意外と木手君と顔を合わせる機会が多かったことを知った。

実は隣のクラスだったり、移動教室でよくすれ違ったり、合同の授業で顔を合わせていたり…

自分がいかに周りを見ていないかを知ったような気がする。





そんな事実に気付いたと同時に、自分の身体の変化にも気付いた。

木手君と会う度、目が合う度、咬まれた痕がジンジンと熱くなり、それが全身に広がるのだ。

自分でも分かるくらい顔に熱が集まり、身体は火照り出す。

『これが“好き”ってこと、なの?』

呟いてみるが、答えが返ってくるはずもなく。

きっと、この答えを知っているのは木手君なんだ。

となれば、木手君を探すのみ。

そう思い、授業中にも関わらず、図書室へと向かった。

自分でもなぜ図書室へ足が向いたのかは分からない。

あえていうなら、“木手君がいるような気がしたから”だ。





カラカラと図書室のドアを開ける。

やはり、授業中だけに誰もいない―――

いや、いた。

長い脚を組み、頬杖えをした木手君がこちらを見ていた。

ドクン。

咬まれた痕が、顔が、身体が一気に熱を発する。

なにか喋らなきゃいけないのに、言葉が出ない。

口だけパクパク動かしていると、木手君がゆっくりと話し出した。

「君がここに来ることは分かっていましたよ」

『ど、して…?』

やっとの思いで言葉を発すると、クスクス笑いながら言葉を続けた。

「だって君は、既に俺の巣にかかっていたのだから」

椅子から立ちあがり、私の元へと歩み寄る。

そして、耳元に口を寄せ、囁く。

「俺の毒は、よく効いたでしょう?」

ペリ、と首筋の絆創膏を剥がすと、傷痕を抉るように舌で舐め出した。

『っ!』

咬まれた痕が痛み、思わず目を閉じる。

でもなぜか、その痛みが心地よくも感じた。

ああ、なるほど。

私の身体がここ数日おかしかったのは、彼の毒に侵されたからだったのか。

妙に納得がいって、ぼんやりと木手君を見上げた。

『…巣にかかった後は、どうなるの?』

食べられるの?

そう聞くと木手君はこう答えた。

「食べる?そんなつまらないことはしませんよ。…俺の巣の中で、嫌というほど愛し、俺以外愛せないようにしてあげますよ」

そういうと木手君は私の唇に木手君のそれを押しつけた。





蝶々は知らなかった



自分が蜘蛛の毒に侵され



張り巡らされた蜘蛛の糸に自らかかりにいったことを



逃げることは



もはや不可能






END





†あとがき†

遅くなりましたが、椿レイ様との相互記念夢です!
大変長らくお待たせしてしまって申し訳ないです(;^_^A
リクエストをいただいた時、ちょうど木手様のアルバムの中の「スパイダー」を活かした作品を書きたいと思っていたので、意識して書いてみました。
「スパイダー」の歌詞には、「黒く光る毒牙突き刺す」とあるので、木手に咬まれる設定を採用してみました。
実際痕が付くくらい咬まれたとしたら血もでるでしょうし、かなり痛いと思うのですが…(;^_^A
ドリームということで多めに見てやって下さいませm(__)m

それでは、椿レイ様、相互リンクありがとうございました!
もしよろしければお持ち帰り下さいませ!

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