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癒えない、言えない嘘 †お題サイトより(木更津淳切夢)
それは、一本の電話からだった。





ピリリリリリ…

「もしもし、佐伯?珍しいじゃん、電話なんて」

「淳、落ち着いて聞いてね?亮、が…」

「え……?」

佐伯からの電話を聞いてから、俺はすぐに千葉へと向かった。

その道のりは、ちっとも遠くないはずなのに永遠にも感じられた。

必死に走って病室へと向かい、ドアを開けた。

そこには、かつての仲間と名前の姿。

『ねぇ、なんで亮は動かないの?ねぇ、なんで?』

「…」

名前がそう問いかけても、誰も返事をしなかった。

嫌な汗が流れるのを感じながら、俺は口を開いた。

「佐伯…?」

「っ!あぁ、淳…」

「亮は…?」

「…それ、が…」

「たった今、息を引き取ったのね…」

その瞬間に、鈍器で頭を殴られたような衝撃を受けた。

おぼつかない足取りで、亮のもとへと歩み寄る。

そっと触れてみれば、段々冷たくなっていく体温。

「嘘、だろ…?なぁ、亮っ!」

『やだよ!亮!私を、置いていかないで!お願、い…だよっ!』

俺の言葉に続くように名前も口を開く。

亮の身体を激しく揺さ振る名前を見て、そういえば2人は付き合っていたな

なんて、働かなくなった頭でぼんやり思った。

「名前…」

『い、や…いやぁぁぁぁぁぁ!!』

そう叫んだあと、名前は意識を飛ばした。



意識をなくした名前をなんとか自宅まで運び、名前の親に託した。

そのあと、みんなにも家に帰るよう促したような気がするが、結局のところ覚えていない。

俺が気が付いた時には、亮の葬式も火葬も何もかも終わっていた。

おぼろげな記憶を辿ると、名前は葬式に来ていなかった気がする。

それが、妙に気になって、彼女の家へと足を運んだ。



ピンポーン

チャイムを押すと、少し経ってから、ドアが開いた。

「あぁ…淳くん。…せっかく来てくれたところ悪――」

『亮は?どこにいるの?…みんなが隠したんでしょ!?私、知ってるんだから!ねぇ、どこに隠したのよ!』

おばさんの声は、誰かの叫び声によってかき消された。

「名前…?」

その声は間違いなく名前のもので、俺はおばさんの制止の声も聞かずに家に上がり込んだ。



「名前?」

『っ!淳…ねぇ、亮は、一緒じゃないの?』

「亮は、もういないんだよ?この間、病院で見ただろう?」

『嘘よ!?…なんで?なんで淳も私に嘘付くの?嫌い、そんな淳嫌い!みんなみんな、大っ嫌い!』

嫌い、そう言われてチクリと胸が傷んだ。

だって、俺も名前が好きだったから。

「名前、亮は死んだんだよ?葬式も火葬もしたんだよ?」

『嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い…』

虚ろげな目をしてそう呟く彼女は、よく見るとひどくやつれていた。

「この間目を覚ましてから、ずっとこの調子なのよ…」

「おばさん…」

気が付けばすぐ後ろにおばさんがいて、そう話してくれた。

話によると、食事も取らず、ろくに睡眠も取らずにずっと亮の名前を呼び続けているらしい。

そんな、あまりに痛々しい名前の姿に、俺は拳を握り締めた。

名前を残して逝ってしまった亮にもだが、何も出来ない自分に腹が立った。

『亮…、亮は、どこ…?……ぁ、いや、だ…一人に、しな…で……いやぁぁぁぁぁぁ!!』

頭を押さえてそう叫び、あの時と同じように名前は意識を飛ばした。



おばさんは帰ったほうがいいと言ってくれたけど、俺は残ることを選んだ。

寝息を立てる名前の頭を撫で、不謹慎かもしれないが、そっと唇を落とした。

『ん…』

「起きた?」

再び頭を撫でて問えば、名前は少し驚いた表情をした。

『…亮?』

「名前、俺は淳。亮じゃない」

そう訂正したが、彼女は聞こえていなかったように言葉を続けた。

『亮、髪切っちゃったの?それじゃ、淳と見分けつかなくなっちゃうよ?』

ふふ、と優しく笑う名前に違和感を覚えて、名前を呼んだ。

「…名前?」

『なぁに?亮?』

彼女は、俺のことを亮と呼んだ。

それは名前が、亮が死んだという事実を拒んだ証だった。

それならば、俺は亮になろう。

あんな、壊れた名前を見たくないから。



あの日から、俺は亮になった。

もちろん、名前の前だけだけれど。

『亮?どうしたの?』

「…なんでもないよ?」

そう言って頭を撫でると、名前は幸せそうに微笑んだ。

「今日はどこに行こうか?」

『亮と一緒なら、どこでもいいよ?』

「クスクス、おだててもなにも出ないよ?」

そんな他愛のない話をしながら歩いていると、誰かに声をかけられた。

「やぁ、淳じゃないか」

「佐伯!」

そこにいたのは佐伯だった。

『虎次郎、なに言ってるの?淳じゃなくて亮だよ?』

「名前こそ、なに言ってるんだい?亮は――」

「っ!」

マズイ

そう思って俺は慌てて佐伯の口を塞いだ。

『亮?』

「なんでもないよ?」

クスクス、といつもみたいに笑って言葉を続けた。

「ちょっと佐伯と話したいことあるから、先に帰っててくれるかい?」

『えー、せっかくのデートなのに!』

「この埋め合わせは必ずするから。ね?」

『もう!いつもそれなんだから!』

ぶつぶつ文句をいいながらも、名前は帰って行った。

「…場所、変えようか」

「…あぁ」



近くのカフェに入り、店員にアイスティーを2つ頼んだ。

そうして、店員がいなくなるより早く佐伯は口を開いた。

「アレ、どういうこと?」

「そのままだよ?」

「亮は死んだだろ?」

「名前の中では、死んでないんだよ」

運ばれてきたばかりのアイスティーにミルクを入れながら、そう答えた。

「だからって、嘘をつくのかい?…これからも、ずっと!」

「じゃなきゃ、名前はまた壊れてしまうだろう…?」

「だからって…!」

「俺はね、もう壊れた名前を見たくないんだ…」

「淳…」

「それがダメってことぐらい、俺にも分かってるよ。でも、どうしようもないんだ…」

分かってくれなくてもいい、

そう付け足すと、佐伯はひどく哀しそうな顔をした。

それ以上俺たちが言葉を交わすことはなくて、沈黙に耐えかねた俺は自分の分のお金を机に置き、店を出た。



その足で名前のお気に入りのケーキ屋でケーキを買い、家へと向かった。

家に着き、チャイムを鳴らす。

『はーい…って、亮!もう用事は済んだの?』

「うん。ごめんね?はい、埋め合わせのケーキ」

『食べ物に釣られるほど単純じゃありませんよーだ!』

べーっ、と舌を出す名前の耳に唇を寄せ、ささやく。

「今夜は、ずっと一緒だから…ね?」

『…バカ(///)』



なんとか機嫌を直してもらい、2人でケーキを食べた。

『そーいえば、さ』

「なに?」

『最近、淳こっちに帰ってこないね?』

その言葉に一瞬ドキリとしたが、なるべく平静を装って返事を返した。

「そ、うだね…忙しいんじゃないかな?」

『そっかぁ…また3人で遊びに行きたかったんだけどなぁ…』

「今度淳に言っておくよ」

『ホント!?絶対だよー!』

「うん。約束」

そういって、果たせもしない約束のために小指を絡ませた。

チクリと胸が傷んだけれど、知らないフリをした。



癒えない、言えない嘘


(それでも俺は、この茶番をやめられないんだ)



END



☆あとがき☆
千歩様のお題サイトよりお借りしたお題夢。

ちょっと補足をすると…
淳がこれからも亮になりすます…というのが、言えない嘘。
それに対する罪悪感や、名前からの愛は亮に向けられたものであり、自分に向けられたものではないという辛さ・寂しさ…などが癒えない嘘。

そんな感じで書いてみましたが、こんな駄文を読んでいただきありがとうございました!
感想いただけると嬉しいです。

千歩様へのお題サイトへはこちら!
http://59.xmbs.jp/suicideslovestory/?guid=on

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あきゅろす。
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