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短編
極道さんに猫耳を



俺の妄想から三日。あの日何とか腹上死を免れた俺は組長さんの寝顔を今拝んでいる。彫りの深い顔立ちに惚れ惚れしたいところだが、今夜の俺はいつもと一味違う。
俺には目的があるのだ。もはや使命と言っても過言ではないかもしれない。
組長さんはぐっすりだ。俺を抱かずに寝たところを見るとかなり疲れているのかもしれない。
だがそうであっても。
俺の使命には変えがたい。俺の趣味を疑われてもいい。正直、自分でも疑っている。だが、心には逆らえない。逆らってはならない。
俺は布団を抜け出し、クローゼットを開けた。こっそりと用意していた袋を紐解く。
中には、ベロアの黒い猫耳が。
そう、俺の使命とは、妄想を、実現することなのだ!!!




極道さんに猫耳を





まずは組長さんを怒らせず起こさなくてはならない。現在午前4時。睡眠を五時間とれば全快の組長さんだから、大丈夫だ。昨日は11時には寝た。
組長さんの黒髪はおりていて、柔らかい。

そっと肩を揺らすと、組長さんは目を開けた。寝ぼけ眼が可愛すぎるがここは我慢すべし。

「ん・・・?真人・・・?」

「組長さん、起きてください」

「どうした・・・?」

組長さんは怒らずに起きてくれた。案外寝起きがいいのだ。――いや、多分。おれだから、とか自惚れない。
俺は組長さんの膝に猫耳を置いた。
組長さんはそれを不思議そうに取り上げる。

「なんだ、これ?」

「猫耳です」

「それが何故ある」

「組長さんに、つけてもらうために用意したからです」

組長さんの顔が凍りついた。即座に断られる。

「出来るわけねぇだろ」

だがそれはもちろん、想定済みだ。組長さんが素直につけてくれるほうがミラクルだ。
俺は諦めず猫耳を差し出す。

「お願いです」

「大体俺がつけたって可愛くも何でもねーだろうが」

「いいえ、可愛いです。可愛いはずなんです。その乗り気ではない嫌嫌感がまたいいんです。組長さんが嫌がっている顔とか大好きなんです。まるで懐かない子猫みたいじゃないですか?いや、そうなんです」

「お前が俺をどうしたいかよーくわかった」

――あれ?
組長さん?ちょ、俺の話聞いてくれません!?
俺は迫ってくる組長さんから逃げ回りながら言い募った。

「お願いですって!後生ですから!一回でいいですからぁあ!!」

「出来るかぁあ!」

猫耳をつけるのはそんなにいやなのだろうか。
俺がつけてやってもいいが、それなら組長さんもペアでないと嫌だ。

「何でもしますからぁあ!」

「あぁ?」

そうだ、コレだ。受けの必殺、何でもするから。俺だってそれくらいの代償は払ってやる。
もちろん、組長さんにもこれは効き目抜群だ。
等価交換って、いい言葉だと思う、うん。ああ、でも俺、何されるんだろ。
俺は動きを止めた組長さんに畳み掛けた。

「猫耳つけてニャーって言ってくれるだけでいいんです、その後は何でもしますから」

「・・・」

「組長さん、お願いします!」

組長さんがどかっと腰を下ろした。指でくいっと誘われる。
これは・・・これは!!まさかの・・・許可かぁああ!!

「ありがとうございますっ」

俺はにじり寄り、組長さんの黒髪にベロアの猫耳を乗せた。本物によく似せて造られた耳は本当の耳のようにしっくりと馴染んだ。
なんですか、何なんですか、この神々しさはぁああ!!

「か、」

「か?」

「可愛いぃいいいですうぅうううううう!!!!」

眉間の皺がまたたまらない。着流しで不機嫌そうに猫耳を装着した組長さんは俺の迫力に思わず後ずさった。
警戒心丸出しの顔がまたこちらをそそる。
フーッと威嚇されているようで最高だった。

逞しい身体。ああ、尻尾もつけたかった・・・!いつか、いつかやってやる!

「ま、真人?」

「何ですか?(ハァハァ)」

「何か副声音が・・・」

「気のせいです(ハァハァ)」

拳を握り締め耐える俺をちょっとおびえた目で見つめる組長さん。ああ、いつもオラオラなのにこういうのは反則でしょう!!
さっきとは逆転した立場、形勢。組長さん、こういうのに弱いんですね!
黒目がちな目に睨みつけられると死んだほうがマシな気分にさせられるが今の俺にそれは利かない!テンションが振り切っていてアドレナリンが大放出されているからだ。
組長さん、愛してます。

「くみちょ、組長さん、可愛いです」

もはや猫耳をつけていることすら忘れている組長さんに詰め寄って抱きしめる。
逞しい胸板・・・なんですかこれは、ぱいですか、ぱいなんですね。
さわさわと腰を撫でていき、尻をちょっと触ってみる。あ、硬い。
筋肉質だ。いいですね、この硬い感じ。男!!って感じです。

「おい、真人、何やってる」

「触ってます」

「・・・・・楽しいか」

「とっても!組長さんだってよく最中に触るじゃないですか俺の」

「お前は・・・」

着流しだからじかにぱいにすりすりしてみる。
着やせタイプなんですよねー・・・お得な人だ。

「もういいだろう」

「まだですよ、ニャーって言ってくれてませんから」

組長さんは呆れた顔になった。
何かもう、何かを諦めたらしい。

「はぁ」

「さぁ、どうぞ、組長さん!!」





「――にゃー」



「げはぁっ!!」

俺は冗談なしに噎せこんだ。何なんですかアンタはぁあ!!どんだけ俺を壊すつもりなんですか!精神的には今吐血しました!
組長さんは何とひらがなで言った。それも至極嫌そうに。
もう、だめだ俺死んでもいい。
組長さんの威力は半端無い。俺の心を掴んで離さない、キャッチマイハート!(元ネタ、金○のガッシュベル)

「真人!?」

「だ、だいじょぶ・・・です」

心臓を押さえた俺に組長さんが手をかけた。
そしてそのままくるり、と反転させられる。

――あれれ?

「く、組長さん?」

「今更逃げるとか言わねーだろうな?真人」

「でも仕事・・」

「んなもんは後だ後」

組長さんは俺の服を脱がせにかかった。
ああもうこれはヤるつもりだ。
組長さんの頭で揺れているふわふわの猫耳。
俺は口を開いた。

「組長さん」

「何だ」

「猫耳つけたままで、ヤってくださいね」

組長さんが凍りついたpart2。

たっぷり30秒、俺を凝視した後組長さんは言った。


「変態・・・」

え?今更じゃね?








「京楽忠孝、お前なんであのグリズリーを囲ってんだ」

「俺にもわからなくなってきた」

翌日の夜、酒を飲みながら告白された内容に瀬野尾は心底忠孝に同情した。
常々真人は変態だと思ってきたが、マジの変態だったとは。
はかなげな外見でそれはないと思う。思うが、瀬野尾は忠孝にかける言葉が見つからなかった。いくら弁論ならお任せあれ口先三寸、舌なら五枚くらいはある瀬野尾にも、言葉に詰まることはある。

「まぁ、恋ってもんは分からないからな・・・」

「あぁ・・」

こうして攻め親友同士の夜は更けていく。






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