短編 PRIDE なぁ、何を捨ててもいいから欲しいモノってないか? ない?本当に?分からないのほうがまだ信じられるね。 欲しいなんて感情はさ、最初に得るものだ。まだ赤ん坊のころにさイッチバン初めに生まれるモノだね。でさぁ何を失ってもこれだけは無くさない。 飯が欲しい水が欲しいなんてのもそうだろ?半分は本能かもね。 お金なんてのは欲望を汚くするものだ。お金か性欲。これに勝るモノって男にあんのか?ねえだろ? 偽善や建前取っ払って裸にしたらきたねぇモンしかねえのが人間だと思うぜ。あ?可哀相?お前おめでたい男だな相変わらず。 あぁ?言葉の通りだろうが。いいか?人間なんてもんはなろくでもねえんだ。夢なんて見るだけ無駄だ。 何お前、ヒーローに憧れるタイプ?熱血だな、おっとグラス割るなよ。 あ、煙草吸うか?いらねえのかよ…いつでも吸えよ。 それで話を戻すが、俺は性悪説だの性善説だのに興味はねえ。 だがな、人間は生きていくうちに汚くなる。汚くなりっぱなしか、汚れを落とすかは個人差があるがな。大概は汚れっぱなしだろ。ま、それが大人になるっつーことだ。 更に汚れていくやつもいる。だから人間に夢は見んな。 どんな人間だって、何かあれば汚れるしどっか薄汚ねぇんだから。 はっ、俺は汚れきった奴だよ。お前も汚れてんなぁ。 マスター、同じの。 ……ふぅ。 で、だ。俺らがしがみつく何でもかんでもを全部取っ払って投げ捨てちまってもいいくらい、欲しいモノ、ねえか? やっぱりねえって? ハハッ、お前つまんねえなぁ。 そうだな。 たとえばそれがあるとして、だ。たとえばっつってんだろ、聞けよ。 ホントに全部捨てちまうことは出来るのかっつったら分からねぇよな。 今までの人生捨てるようなもんだぜ、大層なこった。 俺達は自慢できる生き方はしてきてねぇし。 でもよ、そんな俺らでも、人生捨てるのは怖ぇえ。 ったりめーだ。俺達は面子で生きてんだ。這い蹲ってでも何かを得るなんざ出来るはずもねぇ。 じゃあ諦めろって?それが出来るならそこまで欲しがらねぇんだよ。 何が言いたいんだって?まぁまぁ落ち着けよ。 つまりだ。欲望だけは果てしねぇくせに一歩も踏み出せねぇことがある。理由は?プライドだよ。 誇りとかそんな大層なもん持ってねぇかもしれねぇがちょっとしたプライドはあんだろ? それさえ無けりゃ人間なんて欲望の塊、奪い合ってるさ。 理性だ倫理だなんてもんは後付けでしかねぇ。お前もだ。 その理性くさった真面目な顔、剥いでやりてぇよ。 おっと逃げるなよ。ホラ、俺と出会ったもんはしょうがねぇだろ、付き合え。 それでよ、だから俺ァずっとそんなもんは持たずに来た。心底欲しいモンなんて持たなきゃずっとこのまま生きられるからなぁ。 でも、それも終わりだ。 見つけたのかって?ああ見つけたよ。 じゃあ手に入れればいいじゃねぇか?その通りだよ。手に入れる。 良かったな?お前本当におめでてぇな。何で俺がお前にこんな話をしたと思ってんだよ。 俺が何を捨てても欲しいのは、お前だよ。 ククッ、もう逃げることはできねぇな。動かねぇだろ? ああ、ひとつ教えてやるよ。 俺の場合なぁ、欲しいもんは何が何でも手に入れてやるのがプライドでな。 そのためには手段を選ばないことが、誇りでもあんだ。 ま、お前は俺のモンだよ。 お前のつまらないプライドなんか、根こそぎ剥ぎ取ってやるから覚悟しとくんだな。 俺の名前は瀬野尾要一だ。 忘れてるわけねぇだろ?なぁ神田。 最後に見た顔は酷薄な笑みで (全て奪われたと、獲物である私は悟り) (ああ貴方に出会わなければ良かったなんて) (思ってももう遅い) END [戻る] |