4 そこは訪れたことのない公園で、しかも案外広かったその公園の中、私はまるで迷子のよう。 辺りを見渡してみたって、そこに見知った景色なんてあるはずがなくて…。 ならば何故ここへ? そう考えても答えは出ない。 本当に無意識だったから。 自身の不可解な行動に今日何度目かも判らなくなってしまった溜息を吐きながら、私は銀に染めたばかりの髪を少しぐしゃぐしゃに乱す。 (…さて、どうしたものかな) もう一度溜息を吐き、とりあえず足を動かそうとした時。 「…………ん?」 不意に、音が聞こえた。 それは、 アコースティックギターの音色で。 奏でている曲は調子がいいというのに、その音は穏やかで柔らかく、少し癖のある弾き方。 何処からともなく聞こえてくるその音に誘われるようにして歩きながら思ったことは、 (………懐かしい…) なんて。 意味が解らない。 けれど、確かに懐かしさを覚えるその音色。 (知っている気がする…) (聴いたことがある……気がする…) だが、何処で? 私はいったい、何処でこの音色を……? 怪訝に思うも、足は止まらない。 確実に、音の流れてくる方へと向かっていて。 『――リ、……』 何故だか、 涙が、 溢れそうになった。 「…………」 紡ごうとした言葉は見当たらない。 それでも、確かに私は、『何か』を口に……声に出したくて。 「――…っ…」 声を出そうと、もう一度口を開いた時、彼が顔を上げた。 噴水の前で、集う子供達にギターを奏でてやっていた青年。 その、片方を眼帯で隠した彼の隻眼が、真っ直ぐと私を捉えている。 (あぁ……どうしてだろう) 彼とは、今ここで、初めて出逢ったというのに。 (以前にも、こんなことがあった気がする…) 昔……私の知らないほどに遠い昔に、 …いや、ほんの僅かしか経っていないような過去に、 今日のように、公園でギターを弾く人物に私は惹かれ、 そうして声を掛けて、 それから…… (それから?) すると、見詰めていた茶髪の彼が不意に立ち上がり、そのまま私の方へと近付いてきた。 私はその間馬鹿みたいに動くことができず、ただただ、彼の隻眼を見詰めているばかりで。 (…偶然だとか必然だとか、運命だなんて理解できないし、私はそんな曖昧なもの、信じてなどいないけれど…) 『………、……………』 (それでも…、) 私は、目の前で優しく笑った彼の顔が、ただ、 ただ、 「コンニチワ」 愛おしかった。 あぁ、偶然なのか必然なのか、将又それは運命だったのか。 「新しいバンド名を発表する」 「なんていうんスかっ?」 「“Deuil”」 「ど、……??」 「ドゥ、イ、ユ、だよ、アッシュ君……ヒッヒッヒッ」 そんな不確かなことを知る術なんて私にはないし、別に知らなくても気にはならない。 だって、それを知ることなんて、どうせ誰にもできるわけがないのだから。 「んで、意味は?」 「ふふ…無粋な」 「ホラ、フランス語辞典貸してあげるカラ、自分でお調べヨ」 「……ケチぃっス…」 だけど、それでもやっぱり、 この声が、顔が、温もりが、私の髪を撫ぜる感覚が、 懐かしいとか愛しいとか、そんなふうに思ったことは否定できないから。 「ユーリ…ケチだってサ」 「お前が、だろう?スマイル」 だから、今回ばかりは、 これは必然だとか運命だったら、なんて…柄にもなく思うよ。 なぁ、お前は? お前は、どう思う? (あぁ……私達はやっと、) (ぼくと君の存在する時間の中で、) 『やっと逢えた』 End. . [*前へ][次へ#] |