幻滅デイリー 柚子とイジメ 「お風呂の味がすゆ」 舌が回らないのか、もどかしく発音する甥に苦笑してしまった。 「ったく、何食ったんだよ」 「柚子らよ」 柚子シャーベットね、とパッケージを確認する。しかし、柚子イコール風呂なんておかしな発想である。 「……もしや、冬至の柚子風呂か」 もしくは、一年中お前の家の風呂は柚子風味なのか。いや、それはそれで妙な話だ。とはいえ、風呂の味がすると言いながらも、未だシャーベットを食べる彼は二・三度頷いた。シャーベットを見ると、柚子の皮が入っていた。 「柚子の皮って、食べられりゅの?」 「一応柑橘類だし、マーマレードにも入っているから大丈夫だろ」 彼は上手く皮だけをスプーンに乗せて、俺に見せる。見せられても、正直何をすれば良いのか俺には解らない。そして、ようやく訊かれた。 「柚子の皮、食べりゃりぇる?」 「まあな、中学生の頃に段ボールか蜜柑の皮を食えってやられたし」 俺は、腕を組みながら答えた。 「そりぇって、イジめりゃりぇたの?」 「まあな」 普通に考えれば、両方共食べる物では無い。 「結局、段ボールも口に突っ込まれたけど」 引き金は、何か解らない。思い出は、箪笥から飛び出す様に現れる。 [戻][進] |