幻滅デイリー 給料三ヶ月分 初めて、宝石店という場所に入った。何もかもが、同じに見える。同じ石ころ、同じ輪っか。うろうろしていると、女性店員に話し掛けられた。何だか、気まずい。 「お客様、何をお求めでしょうか」 ああ、人すら皆同じに見えてきた。 「えっと、あの、プロポーズの指輪を……」 「では、こちらなど如何でしょうか」 カタログを見せられ、店員の指先が法外な値段をなぞる。ちょっ、指輪ってんな高かったか。瞼を擦りながら、何度か瞬きを繰り返す。 「う、ええ……」 そんな事をしても、カタログに書かれた値段は変わらないのは知っているが。 「では、お相手の誕生月は」 「えっと、七月です」 「ルビーですね」 ルビーって、赤いやつだっけか。いや、確か赤いはずだ。 「サイズも、七号なんですよ」 「……も?」 訝しげな顔をされるが、サイズも七号なのだ。指輪のサイズも、服のサイズも。ラッキーセブンの彼女だから、給料も七ヶ月分にした方が良いのかとは思ったが。ここは、セオリー通り三ヶ月にしてみた。それだけだ。 「それでは、こちらなどは如何でしょう。デザインも女性に今人気の、新人デザイナーの作品なんですよ」 またもや、ちらつく法外な値段。 しかし、常に足元見られてる。 [戻][進] |