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幻滅デイリー
電話錯覚
 人間というやつは、想像逞しい生物なんだと思った。

「もしもし、佐藤さんはいらっしゃいますでしょうか」
「あ、はい……。少々、お待ち下さい」
低めだけど、透明感のある声だった。佐藤さんの彼氏なんだろうな、と彼女を突いて「彼氏さんみたいよ」と言ってから内線を回す。
「やだ……、会社まで来ないでよ……」
「あ、ごめん」
互いの話し声が聞こえ、苦笑いが零れる。最近、佐藤さんは別れたと聞いたけど、くっつくのも早いわねと感心してしまった。

「佐藤さんの新しい彼氏、知ってますう?」
「え? 何が?」
トイレでランチ後の化粧直しをしながら、鈴木さんが言う。
「声、聞いたことありますう?」
「え、まあ、昨日──初めてだけどね」
目を細めながら、鈴木さんは続ける。
「すっごい良い声ですよね、ハリウッド映画の吹き替えみたいなあ」
「ん、そうね──」
最後に、口紅を引く。
「でも、実際見たら意外だったんですよお」
「どういう事?」
甘ったるく耳に残る、鈴木さんの言葉。
「何て言うか、一言で言えばダッサいっていうか──佐藤さんらしく無いっていうか。汗くさい、地方公務員で──」
「もう良いわ、ほら人って一言じゃ言えないでしょう?」

 要は、勝手に騙されていたという事かしら。

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