幻滅デイリー
落花の記憶
バシャンッ。
ああ、苦しい。苦しい苦しい、苦しい。喉を掻きながら叫ぶ、声にならない声。叫んだら、余計に酸素を使ってしまう。水の中は、無音ではなかった事に気付く。この恨めしい手錠と、重りを着けた足枷を見る。暗い暗い海の中、重力はわたしを無視してはくれない。少しずつ、少しずつ肺から酸素が漏れていく。
唇を閉じ合わせる、歯を食いしばる、瞼を閉じる、身を縮こませる。少しでも、命を長引かせる様に。けれども、変わらない事が一つだけ。
誰も助けに来ない、誰も助けてくれない、彼はわたしを殺した。
苦しい、苦しい、苦しい。苦しい以外に、この状態を表現する言葉が見付からない。苦しい、もう我慢出来ない。
ゴボッ。
一気に、口から空気が溢れた。驚いて、瞼を開く。白い輪がいくつも重なって、上に浮かぶ。空気が羨ましい。涙は、海に混じって消えた。
もう、出せる二酸化炭素も無い。ふと、一瞬を超えた時、苦しくなくなった。違う、苦しいけれど苦しくない。頭が朦朧として、何も考えられなくなっているだけ。酸素が頭に届かなくなって、段々と感覚が無くなってきただけ。
不意に口を開けると、海水が流れ込んで来た。気管に直接通ってくる。海水なのに、しょっぱくもなかった。むしろ、ゼリーの様に気管を埋め尽くす感覚。
船上から投げられ、沈むわたしは青い薔薇を見た。
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