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幻滅デイリー
何て、気障りな!
「待って……、待って下さい!」
わたしは両手に書類を抱えたまま、エレベーターに駆け込んだ。けれど、あと一歩ところで間に合わない。重い鉄の扉に挟まりそうになり、瞼を閉じて身を縮こませた。

 ガンッ、という音がフロアに響く。恐る恐る見ると、乗っていた人が押さえてくれたらしい。だけど、素手で扉を直に叩いていた様だった。なんて、阿呆な人なんだろうか。開閉釦を押せばいいのに、と唖然とする。
「乗りなよ」
エレベーターには、彼以外乗っていなかった。変な人、とわたしはすぐに認識した。
「すみません、有難う御座います」
「なに、御互い様さ。何階?」
4階の釦に、オレンジ色のランプが点っている。ドアは閉まり、階を上げていく。
「あ、大丈夫です」
「貸しなよ」
何を? と疑問符を浮かべていると、三分の二程書類を引ったくられる。
「旅は道連れ世は情け」
「エレベーターだけど」
「まぁまぁ」
並んでエレベーターを下り、書類を届ける。わたしは、おずおずと訊く。
「手、大丈夫ですか?」
あの音と勢い、痛いだろうと他人ながらに心配してしまう。すると、彼は軽くチッチッと指を振った。
「君、ダイヤモンドは傷付かないのさ」

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あきゅろす。
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