幻滅デイリー 手遅れの彼 気付いた頃には、もう遅い。何もかもが、昔からそうだった。何かをしようと思えば、いつだって手遅れだった。ワンテンポ遅い、それが彼だった。 「や、何て言うんですかね。遅い、とかじゃなくて。気付くのは、意外に普通なんです。行動に移すのが、遅いだけで」 頭を掻きながら、此方をみて苦笑する彼。わたしは訊いた。 「何故、行動に移すのが遅くなってしまうのですか? 遅くなってしまう理由を、考えた事がありますか?」 「あ、それはあります。何と言うか、その行動は余計なのではないかと考えてしまうわけです。それは言わなくても良いんじゃないか、雉も鳴かずば撃たれまいではないんですけど」 キョロキョロと黒目だけを動かしながら、辺りを気にしている様だった。 「で、あなたは期を逃してしまうと」 「そうなんですよ、タイミングが悪いと言うか。思い立ったが吉日、なんて縁が無い言葉です」 「ふむ」 心配そうに、此方を見やる彼。様子を窺いながら恐る恐る、口を開く。 「治りますかね、こういうのって……」 「わたしの見る限り、手遅れでしょうね。あなたは、此処に来る事も遅かったのです」 [戻][進] |