[携帯モード] [URL送信]

幻滅デイリー
繪描きの性分
「繪を描かねばならぬ」と彼は言った。そして、彼は戦が起こる度に家から飛び出して、憲兵にしょっぴかれていた。



「兄さん、もう止めて下さい」
「あ?」
胡座をかいて絵筆をくわえる兄弟子の着物姿は、とても神々しく存在していた。
「もう、死体を見に行くのは止めて下さい」
「嫌だ」
「嫌だって、兄さんは子供ですか」
眼鏡の奥の冷たい眼は堪え難いものがあったが、兄弟子の為にも俺は強く出ねばならぬ。勿論、亡き師匠の為にも。
「お前だって、幼い頃に橋の下の死体を描いていたんだろう」
「それは……、幼い頃の話です」
「ふん」
水を吸い過ぎてしまい、ふやけきった粥を掻いて混ぜる。
「粥も、ふやけてしまいましたよ」
「言われなくても、食えば良いのだろう」
立ち上がる際の、荒々しい所作で下帯が垣間見えた。
「ほれ、箸を寄越せ」
「はいはい」
師匠が亡くなってから、もうそろそろ三年になろうとしている。そして、それから弟子の俺達は全く変わっていない。
「死体が見てえんだよ、血の色が出ねえ」
「今は、飯時ですが」
「何だ、それ程度でか? そんなら、春画なんて未だ未だ先だな」
大袈裟に笑い飛ばす兄弟子を、俺はあまり快く思わない。

[戻][進]

26/29ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!