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幻滅デイリー
紫煙の君
 胸ポケットからタバコを取り出し、箱の底を軽く叩いて抜く。そして、少しだけ口を開けてそれをくわえる。タバコの箱を胸ポケットに戻し、ライターと交換。風避けに右手を翳し、火を点す。肺一杯に息を吸い込み、鼻孔から吐き出す。
「ふう……ッ」
仕事帰り、一時の至福。体全体に、ニコチンが巡る感覚。紫煙に包まれ、ほうっと息をつく。しかし、それは息の抜きすぎに過ぎなかった。
「はいはい、お兄さん。ちょっと止まってね、はい。身分証出して、名前と職業は」
決して、有無を言わせない態度だった。何故ならば、相手は警察官だったからだ。
「……鈴木田信人、地方公務員」
「これは、路上喫煙防止条例違反だね。過料は、三千円ですよ」
渋々、携帯灰皿と財布を取り出して開ける。携帯灰皿に、吸っていたタバコの先を押し付けて消した。財布を見れば一万円札と五千円札が一枚、千円札が二枚入っていた。舌打ちをしながら、五千円札と千円札を一枚ずつ渡す。警察官は千円札を返し、自らの財布を開けた。しかし、俺はそれを静止させる。
「良いんだよ、もう一回目の前で吸うんだから。いわゆる、先払いだ」
そう言って、俺は再びタバコを取り出して口にくわえた。

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あきゅろす。
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