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幻滅デイリー
寵葬
「殺したい程に、愛している相手がいるのなら──お勧めですよ」
そう言って、さも可笑しそうに男は笑った。
「いやいや、実際にお買い求めになる方は多くいらっしゃいましてね。セットだと、お安く提供しているんですよ。プランも、何と何と此処だけ。まあ、寵葬自体が此処でだけの話なのですが」

 アングラ系で、知る人ぞ知るという店。何と、店長の名刺が無ければ入店さえ許されないという不思議な店なのだ。かく言うわたしも、初めて入る。誰しも、二回目は無いというシステムだから当たり前と言えば当たり前だが。
「愛人、不倫相手、浮気相手、母、妻、彼女、娘と。まあ、主に男性が利用しますけれども」
悪びれる様子も無く、男──店長らしき人物──は言う。
「では、この寵葬パックbを一つ下さい」
それは倫理に反する事なのか、わたしには解らなかった。ただ、自らの──うら若き、金に目の眩んだ──家内を詰める事にしか興味は無くなっていた。
「おいくらですか」
きっと、高いのだろう。いや、金はいくらか用意してあるから大丈夫だとは思うが。すると、男は厳かに答えた。
「いえ、金品は頂戴しておりません。その代わりに、その名刺を誰か他人に──求める人に渡して下さい。ただ、それだけです」

 今も、その名刺は出回っているそうだ。人と人の間を縫って、今日も誰かが誰かを寵葬しているのだ。

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あきゅろす。
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