幻滅デイリー
一日遅れの恋人
「俺もだよ」
「それなら、わたしを捕まえてみせてよ」
女はそう言って、微笑んだ。
月は綺麗なのに、彼はわたしを捕まえる事は出来ない。わたしが彼に捕まってあげる事は出来るけど、その逆は決定的に不可能なのだ。一昨日言った言葉の返事は昨日だったし、昨日の言葉からの行動は今日だった。
「惜しいわ、少しだけズレている感じ。うーん、そうね──もう少しだけ左かしら」
あなたから見て、とは言わない。そして、わたしは明日もう少しだけズレた位置にいる。もしかしたら、わたしはただ単に彼との追いかけっこを楽しんでいるだけなのかもしれないけど。明日も、あなたはわたしを捕まえる事は出来ないに決まっているし、ちゃんと一日だけ遅れてくれるけれども。
「昨日より、あなたを愛しているわ」
あなたは、一日遅れの恋人だから。
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