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幻滅デイリー
香りの記憶
 くん、と匂いを嗅ぐ。わたしの嗅覚は、なかなか良いと思う。むしろ、自慢の域だけど。ただの受け売りに過ぎない話だけど、どうやら香りにも記憶があったりするらしい。寝ている人の傍でカレーの匂いを嗅がせたりすると、何と夢の中でカレーを食べたという発言が記載されている記録があるらしい。

 すん、と香りを嗅ぐ。自分の来ているセーターを軽く捲くり上げて、顔を近付ける。これは、わたしの香りじゃ無い。
「加齢臭か」
「え?」
「いや、君が前に『何だか、お父さんと似たにおいがする』とか言っていたから」
うん、と先生はそう言っていた。
「えっと、いや、加齢臭とか、そういうのじゃなくて……」
うーん、先生はお父さんみたいな人っていうイメージがあるだけなんだよねえ。一回だけ、間違えて「お父さん」と呼んでしまった事もあるけど。うーん、と腕を組んで首を傾げる。何の匂いか全然解らないなんて、わたしらしくも無い。もう一度、セーターを捲くり上げて鼻から息を吸う。
「あ」
道理で解らないはずだ、と思わず自分で納得してしまう。
「何? どうした?」
「これ、先生からの移り香なんですよ。タバコの香りなんですッ!」
「あ、ああ──そう」
先生は、そう言ってから苦笑した。

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