幻滅デイリー
人生、無味無臭
口の中がしつこい。何だか、コールタールで出来た飴を幾つも舐めている様だった。ドロドロとした、粘着質の塊が咥内を犯す。不快感が満たされ、限界のリミッターが外れかける。
「美味しい?」
家内がそう訊くまで、自分が何をしているか解らないくらいだった。
「どうしたの?」
まるで、真水の染み込んだ紙を食べているのと同じ。口の中がゴワゴワするだけで、何も感じる事も無い味覚。
「ねえ?」
ごくり、と無理矢理に喉の奥へと流し込む。
「ん? ああ……、美味いよ」
美味い、なんて物じゃない。無我の境地にまで来なければ、口に入れる事さえ躊躇われる。
「そう、良かった」
「うん」
何故、こうなったのだろう。考えてみるが、全く予想もつかない。
「おとうさん、おかえりなさい」
「ああ、ただいま」
五つになる娘が、夜も遅いのに起きて来てくれる事だけが嬉しかった。しかし、娘は言った。
「おとうさん、タバコくさーい!」
そして、家内の元へ逃げていく。
喫煙は、あなたにとって肺気腫を悪化させる危険性を高めます。
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